あなたとホワイトウェディングを夢みて

「申し訳なかったでは済まないよ」

 郁未の厳しい声が留美の胸を貫く。
 いつもならここで言い返す留美だが、自分の落ち度を一旦認めてしまうと辛辣なセリフが思い浮かばない。それでも『ですが』と言いかけると郁未がセリフを遮る。

「君の代わりに遅くまで残業した田中がプログラムの不具合を直したが、それで君の失態が無くなる訳じゃない」

 留美はどう責任を取らされるのかとビクッと肩を震わせた。
 完全に元の顔色に戻ったとは言い難いが、それでも留美の表情は前日よりは良くなっている。郁未は留美の顔を暫く眺めていると、小さな溜め息を吐き呟いた。

「もう、体調は良いのか?」
「え? あ、はい……」

 鋭い視線と辛辣な言葉を突きつけられているのに、次の瞬間、郁未の言葉が柔らかくなりその視線も優しいものへと変わっていく。郁未の態度のギャップに戸惑いを覚えた留美だが、再び郁未の言葉が留美を襲う。

「君には今回の失態を償って貰う」
「……償うって?」

 留美を見る郁未の視線がとても熱く、瞬き一つしない瞳が胸の鼓動を弾ませる。すると次の瞬間、留美の体が硬直する。

「今夜一晩付き合え。それで君の失態を許そう」

 留美は自分の耳を疑う。本気でそんなセリフを言っているのか、郁未の瞳を見つめ返す。しかし、留美に向けられる真っ直ぐな瞳がとても熱く今にも火傷しそうで、聞き間違いではないのだと留美は息を飲む。

「今日はもう帰れ。今夜の為に美しく着飾ってくれ」
「……わかりました」

 郁未は本気なのだと、留美は唇が微かに震える。
 前に郁未の親友を交えたディナーでも失礼な行動を取った。今回の失態は業務上のものだが、郁未の怒りを再び買ったのならば従う他ないと留美は大人しく専務室から出て行く。
 部屋から出る留美の後ろ姿があまりにも儚げで、郁未は自分が言い放ったセリフに胸を痛める。
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