あなたとホワイトウェディングを夢みて

 仕事のミスを償う夜。郁未の胸に抱かれて眠る覚悟が必要な夜。けれど、本当ならば仕事の失敗の責任を負うべき人物は他にいる。事実を話せばここから逃げ出せる。
 そうすれば、郁未との夜はなくなる。
 なのに、留美は何も言えず、ただただこの夜、郁未と過ごせる時間がどんなものかを知りたくなる。本当は怖くて、嫌で堪らなかったはずなのに。ダウンライトの淡い灯に飲まれてしまったのか。或いは、ほのかに漂うワインに酔ったのか。留美は魅了されたように郁未の唇を目で追う。

「ここのスープは甘くて体の芯まで蕩けそうになる」

 ハッと気付くと、いつの間にかホテルのスタッフがスープを運んで来た。上品な白磁の器に目が行くと、スープとサラダがテーブルに並ぶ。
 郁未はスプーンを手にすると早速スープを掬う。目を見開いて食器を眺める留美を見て、郁未の手が止まる。

「今夜は軽めの食事が良いかと思って、料理も簡素なメニューを頼んでいる」
「軽め?」

 郁未の言葉の意味が分からず留美が困惑していると、隣の部屋に続くドアの方へと郁未の視線が移る。

「ドアの奥には何があるの?」
「寝室だよ」

 今夜は郁未と一晩過ごすのだと再認識させられた留美は、椅子に座る郁未の裸体を妄想し顔面が茹で蛸のように赤く染まる。きっと見た目以上の逞しい腕や厚い胸板で、裸の郁未もさぞ男らしい筋肉質な魅力ある体つきなのだろうと。

「その前にあまり食べ過ぎては夜が楽しめないだろう?」

 クスッと余裕の笑みを浮かべる郁未に対抗し、心拍数が上がる留美は言い返す言葉を探すも、つい子供染みたことを言う。

「お腹が減っては何も出来ないわ」

 男女経験が皆無な留美は夜の行為など知る由もない。満腹のどこがいけないのかと、自己問答する留美の心臓が口から飛び出しそうな程鼓動が大きくなる。
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