あなたとホワイトウェディングを夢みて
 アルコールに酔ったとも思えない郁未の凜とした瞳に、留美の方が飲まれてしまいそうだ。ダウンライトの所為なのか、それともワインの甘い香りの所為なのか。郁未の瞳がとても熱くて、見つめられるだけで体の奥から何かが湧き上がり体が痺れていく。
 留美の瞳が微かに潤み、恍惚とした顔へと変わっていく。まるで誘うような留美の表情を見逃さない郁未は席から立ち上がると、留美のそばへと寄って行く。
 留美の隣に立った郁未が手を差し出した。それがどんな意味を持つのか、男性経験のない留美でもこの状況の意味は分かる。それだけに困惑する留美は無言のまま郁未を見上げた。

「どうやら紳士にはなれそうにない」

 食事が終わるまで待つと言ったばかりなのに、郁未はダウンライトの薄暗いムードある雰囲気と一体化し留美を見つめる。雰囲気に流されたくない留美は食事を中断するつもりはなく、郁未から視線を逸らす。
 すると、強引に留美の椅子を後ろへ引き下げた郁未が、留美の腕を掴み引き寄せると勢い任せに抱き上げる。

「何するの?!」
「もともと今夜はその予定だっただろ?」

 たとえそうであっても、それはまだ今ではない。留美はまだ心の準備が出来ていなかった。郁未との食事にたっぷりと時間をかけた後、静まる夜を迎えられたらと思っていた。

「待って……」
「待たない」

 力ずくで留美を抱き上げた郁未は寝室のドアへと向かって一直線に進んで行く。戸惑う留美が何を思おうが今夜は自分の思いを遂げるつもりだと。
 強いられた結婚から逃れる為に接近した女の筈なのに、逸早く留美をベッドで組み敷きたいと、郁未の心臓はこれまでにない程に早鐘を打つ。ティーンエイジャーでもあるまいし、頭では賭けの対象にしか過ぎない女と分かっているのに。心逸る郁未は寝室のドアノブを不自由な手で軽く触れて回すと、爪先で思いっきり蹴飛ばしドアを開けた。
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