あなたとホワイトウェディングを夢みて
「留美……」

 甘く囁く郁未の声が頬のすぐそばから聞こえてくる。熱い吐息を頬に感じ、郁未の顔が近付いていることが判る。いったんは静まった心だったが再びざわめき瞼をギュッと閉じてしまう。

「……留美、可愛い」

 擽ったくも耳朶にチュッと口付けされた。柔らかな唇が触れるとそれだけで身体全体がビクッと跳ねそうだ。

「留美が嫌がることはしない」

 初な反応を見せられると留美は処女なのだと郁未は実感する。無理強いする気のない郁未は留美の耳許から顔を離して行く。少しでも留美の警戒心を解こうと郁未はそのまま後ろに寝っ転がり、留美の頭に腕を回しては腕枕をし天井を仰ぎ見る。
 予想外の体勢に留美は半分パニックを起こしかけていた。
 普通、ベッドに横になって抱き合う男女が恋人同士ならば、彼氏は彼女にキスし服を脱がすだろう。甘い言葉を囁きながら……
 女を抱く絶好のシチュエーションだが郁未は一向に触れては来ず、ただ仰向けに横たわっているだけ。抱く気が失せたのかと郁未に質問する勇気はなく、かと言って今の体勢は思いのほか心地よい。
 ベッドの上、それも布団の上で二人横に並び、逞しい郁未の腕に抱かれた今のこの状況は留美に予想以上に喜びをもたらす。もし布団に潜り裸体の郁未の胸にギュッと抱きしめられたらどんな感覚を味わえるのか妄想してしまった。

「……ディナーが途中だったな」
「はい、そうであります」

 変な想像をしてしまった留美の口から片言日本語のようなぎこちないセリフが出る。それも上ずった声だ。
 留美の緊張が伝わる郁未は処女の留美を抱くわけにはいかないと、大きな息を吐いて自分にブレーキをかけた。
 郁未の口からディナーという言葉が出たことで、もしや食事に戻るのかと思った留美が身体を起こそうと腕に力を入れたが、郁未の身体が横向きに変わり包み込まれる様に抱きしめられ身動きが取れなくなる。すると、予想外のセリフを郁未が言う。

「しばらくこのままで居させてくれ」

 驚いた留美は身体が硬直し、せっかく静まっていた心臓が再び大きく動き出す。

「あの、食事はしないんですか?」
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