あなたとホワイトウェディングを夢みて
 営業部長からの相談とは、郁未が今回の家具ショーに欲しかった北欧の家具が、先方から展示許可が取れたとの報告があったことについてだった。家具ショーの期日に間に合うように営業をかけていたが、先方との折り合いがつかずに今回は見送るつもりでいた。
 ソファーに深く座り、ショーの前倒しを主張する営業部長と話し合うこと数時間。郁未は、部長の熱意に負け家具ショーの前倒しに踏み切る。
 そうと決まれば会場へ搬入するまでのショーの前倒しに必要な事項の確認に追われる。応接テーブルに資料を広げ、電話を片手に逐一確認作業を行っていた。それらの作業が終わり一段落したのは外が暗くなりはじめる頃だった。

「今回は若手社員が随分と粘ってくれたおかげでかなり期待できるショーができそうですよ」

 テーブルに折り重なる資料を片付けながら嬉しそうに話す営業部長。若手社員の頑張りが伝わってきた郁未としては自社の将来が頼もしく感じ、自然と表情が和らぐ。

「コーヒーをお持ちしますね」

 少し疲労感を漂わせる郁未と営業部長。二人を気遣った秘書がキッチンのある秘書室へ向かおうとした。けれど、営業部長はこの後もまだ確認作業や部下への指示など、仕事が山のように残っているからとコーヒーを辞退し部屋から速やかに出て行った。

「専務、コーヒーは如何ですか?」
「いや、今日は早く帰りたいから遠慮しとくよ、いつもありがとう」

 大きな商談が成立したような気分になる郁未は珍しく秘書への言葉まで優しくなる。

「お急ぎですか? 後は私が片付けましょうか?」

 デスクの上に散らばる資料をいそいそと重ねる郁未を見て、秘書が片付けを手伝いはじめると、留美会いたさに秘書に後を任せた郁未は急ぎ部屋を出た。
 部長との打ち合わせ中は仕事で頭がいっぱいだったが、今は留美の笑顔が脳内を駆け巡る。駐車場に停めていた真紅のスポーツ車に急いで乗り込み、エンジンをかけると暖気もせずにアクセルを深く踏み込んだ。

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