あなたとホワイトウェディングを夢みて
細かいところまで目を通すと、これはホテルが発行したパンフレットではなく、地元の商工会議所が観光案内用に作成したパンフレットだ。
島一番の観光スポットはやはり、ホワイトウェディングの撮影場所となっているビーチで、海水浴より冬の結婚式目当てに訪れる観光客が年々増加していると紹介されていた。
その撮影場所と言うのが、地図で確認すると先ほど郁未が行ったあのビーチだ。
確かに白い砂浜はポスターのイメージと同じだが、海面はお世辞にもポスターの南国風のエメラルドグリーンとは似ても似つかぬものだった。
(……一種の詐欺だろ)
何はともあれホテルに宿泊できないと判れば、留美は海辺へ足を運び撮影場所を堪能したらとんぼ返りをしたはずだ。
パンフレットを見る限り目ぼしい観光名所はない。島の中央には小高い山が連なり、日帰りできるハイキングコースの紹介があるくらい。山の頂上からの景色が絶景だと魅力が書かれているが、ホワイトウェディングに心惹かれて島を訪れた女性が登山したがるとは考えられない。
「留美はもうこの島にはいないな。絶対に」
郁未にはそう確信できた。理由は簡単だ。
郁未自身がホワイトウェディングの撮影場所以外に興味が湧かないのだから、結婚式を夢見るうら若き女性があのビーチ以外にそそられる場所などある訳がない。
そそくさと車に乗り込んだ郁未はフェリーターミナルへと急いだ。
何度もすれ違った留美と郁未。島に長居する気がなくなった二人はそれぞれフェリーターミナルからフェリーへ。搭乗手続きを済ませた留美は歩行者専用乗り口から、郁未は車両専用の入り口からフェリーへと乗船する。
お互いに同じフェリーに搭乗したと気付かずに、留美は船内の休憩室で、郁未はリクライニングシートを倒し車内で、フェリーが本土に到着するまで待つことにした。
そして、二人を乗せたフェリーは無事に本土へと着き、フェリーを下りた留美はフェリーターミナルのバス停から自宅とは真逆方向に行くバスへ乗り、郁未は自宅へと向かって車を走らせた。