あなたとホワイトウェディングを夢みて

 時計の針を見た留美は、針が不思議な位置にあるのに気付いた。

「え? 時計狂ってますよ、先輩」
「これが今の時間なの」

 目を疑った留美がもう一度壁掛け時計を見た。何度見ても、その時計は『午後四時』を指している。
 留美が専務室へ向かったのは、昼休みが終わり午後の業務開始直後だ。おおよそ、午後一時少し過ぎた頃だ。
 だが、今は午後四時。
 つまりは、留美は専務の部屋に三時間居た事になる。提出したデータの報告には、せいぜい多めに見ても三十分もあれば説明は終わる。そんな程度の仕事だ。
 だから、二時間以上の空白な時間を疑われるのも当然の事だった。
 あの時、留美は――専務室でソファに座り、専務がチェックを終えるのを待っていた。少しウトウトとしたけれど、十分かそこらだと思い込んでいた。
 それが実際は三時間もの時間が過ぎていたと知り、留美は背に冷たい物を感じる。
 両親が高校教師という教育一家で育った留美――
 たとえ嘘も方便とは言え、それさえ嫌う聖職者の家庭では真実のみが絶対な存在だ。そんな生い立ちも手伝い、留美は専務室での様子を正直に伝えた。
 専務がデータをチェックしている間、応接ソファで座って待っていたと。
 しかし、女子社員と密室で長時間、あの専務が指一本触れる事なく終わるはずはないと、田中は留美の言葉を疑った。

< 25 / 300 >

この作品をシェア

pagetop