あなたとホワイトウェディングを夢みて
「あの、澤田様。本日は珍しい地酒が入荷しておりますが、そちらはどうでしょう?」
「地酒?」
「はい、甘口で女性に人気のお酒ですが、男性のお客様にも好評でして」
「それを貰おうか」
郁未の機嫌を損ねないように、機嫌取りするバーテンダーは急いで地酒を準備する。いつもラウンジでは女性連れの所為もあって、洋酒を注文することが多い郁未が日本酒を嗜むのは実に珍しい。
しかし、日頃からアルコール度の高い洋酒を飲み慣れている郁未には少々度数のある地酒でも問題ないだろうと、バーテンダーが進めたのだが―― 心が折れ掛かっている郁未に日本酒はかなり効き目が強かった。
空きっ腹で飲酒したのも原因だが、酒が進めば進むほどに、雲隠れしたように姿を消してしまった留美への想いが募り、会えない寂しさから余計に酒に飲まれてしまった。
「澤田様、今日は随分と酔いの回りが早いですね。もうこのあたりでお部屋へ戻られては如何ですか?」
いつもより飲酒量が少ない割には酔いの回りが早すぎる。
自分でも判っているが地酒の甘さが留美と重なり、もっと欲しくて止められない。一口飲めば日本酒の甘さが肢体の隅々まで広がり、留美の甘い香りに包み込まれている気分を味わえる。心身ともに深く包まれていたいと、郁未の手は次々と盃に酒を注いで行く。
「澤田様」
外界から閉ざされているラウンジは夜の雰囲気を醸し出しているが、まだ外は明るい時間帯で、仕事の息抜きにしては明らかに飲み過ぎだとバーテンダーが止めに入る。しかし、郁未は気の赴くまま甘美な地酒に酔い痴れる。
バーテンダーは酩酊する郁未を放置できないと、フロントへ連絡したが宿泊の予約は入っていないと、今日は郁未は宿泊客ではないと判る。連れもいなく一人で酔い潰れてしまってはホテルのスタッフでは対処のしようもない。そこで、郁未と親密な常連客の聡へ連絡を入れる。
しばらく待つと、濃紺ストライプのジャケットを羽織り、白っぽいジーンズ姿の聡がバーラウンジにやって来た。