あなたとホワイトウェディングを夢みて

「ったく、いったい何があったというんだ? おい、郁未?!」
「ふ……ふ……りゅみ……」
「りゅみ? 何だそれ? まだ飲み足りないのか? いい加減にしてくれよ」

 ブツブツ文句を言いながら郁未の両足をフットスペースへ移動させ、郁未が座りやすいようにリクライニングシートを少し動かそうとすると、聡はいきなり首ったけに郁未に抱きつかれた。

「りゅ……み……」
「キモイんだよ」
「すき……だ……りゅ……」
「俺にその気はないぞ」

 女性の名前らしき言葉をうわごとのように繰り返し言う郁未。聞き覚えのある名だと思えた聡は倒したシートに郁未を寝かせ、抱きつく郁未の腕を離しながら女性の名が誰なのか考えた。

「やっぱり、留美ちゃんだろうな……」

 酔い潰れるまで飲んだ郁未の姿が情けなく感じる聡だが、郁未がこれまで女性関係で酒に溺れるなど記憶にない。きっと何か二人の間であったのだと勘ぐる聡は郁未のジャケットを弄り携帯電話を探した。
 しかし、上着もスラックスのポケットにも携帯電話は見当たらなかった。

「忘れてきたか、落としたかのどちらかだな」

 仕方なく自分の携帯電話を取り出し電話帳を開く。
 しばらく画面を眺めたものの操作をキャンセルし、携帯電話をジャケットの内ポケットにしまう。車のエンジンをかけた聡はハンドルをギュッと握りしめ、郁未の醜態を横目に軽く溜め息を吐くとアクセルを踏んだ。
 郁未の自宅へと車を走らせるが、考えてみれば郁未は一人暮らしだ。泥酔した男をマンションに一人置いて帰れるだろうかと頭を悩ませる。

「やはり、留美ちゃんに連絡を取るべきか? しかし、そこまで留美ちゃんに甘えて良いのかどうか……おい、郁未。留美ちゃんとはどうなった? 少しは進展したのか?」

 何度問いかけても郁未はどうやら夢の中らしい。聡はますますこのまま放置できないと、郁未のマンションへ送り届ける前に留美を拾って行くべきかと苦慮する。
 すると、赤信号でブレーキをかけた聡の目の前を、横断歩道を颯爽と歩いて行く留美の姿を見付ける。
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