あなたとホワイトウェディングを夢みて
「これまでで最高に素敵な衣装だわ」
「こんな素晴らしい花嫁衣装は初めて見るわ」
「よほど新郎に愛されているのね。羨ましいわ」
女性スタッフの恍惚とした眼差しに囲まれながら、留美は母親に手を引かれエントランスへと入って行く。
女性スタッフの話し声が聞こえてきた留美だが、新郎とは今日が殆ど初顔合わせと同じで、感情のない結婚と判ればどんな顔をされるのか、想像しただけでも虚しくなる。
ただでさえカツラが重いのに、スタッフの言葉にますます留美は俯いてしまい、もたつく足が縺れそうになる。
「大丈夫?」
「大丈夫よ。少し歩き難いだけ……」
留美は母にそう答えるのがやっとだ。
今日これからいよいよ新郎と顔を合わせる。自宅にいる時はまだ気持ちに多少は余裕があった。けれど、本当にこれから郁未以外の男性と挙式を上げ、夜にはベッドを共にしなければならないと思うと、平静さを保つのが辛い。
郁未以外の男性に、しかも、見知らぬ男の人に、今夜バージンを捧げなければならないのだ。
(……わたし……できるの?)
結婚とは夫と食事を楽しみ、会話を交わすだけではない。寝食を共にするのだ。同じ布団に寝て子供を作り家庭を築いていくものだ。
(やだ……私、そんなこと)
新婦の控え室までやって来てやっと留美は自分の置かれている立場に気付く。
「あの、今日、……その、……新郎って」
結婚式場に到着するなり困惑し続ける留美の両手を、母親がしっかり握り締めた。そして、優しく微笑みながら言う。
「大丈夫よ。きっとあなたも旦那様になる人を愛するわ。幸せにして貰いなさい」
「でも、私……本当は好きな人が」
「お母さんを信じなさい」
留美は母に手を引かれ、控え室の奥に用意された、花嫁用の肘付き木製椅子の所へ行きそこへ腰を下ろした。
留美の告白混じりなセリフを遮った母親は、椅子に座った留美の顔を見ると瞳を潤ませて何度も頷く。
「留美、本当に素敵よ。日本一の花嫁よ」
母の笑顔と言葉に留美は何も言えなくなる。