あなたとホワイトウェディングを夢みて

 郁未はぐうの音も出なかった。
 だからと父親の言いなりに結婚する気は毛頭ない。

「分かりました。結婚は視野に入れておきます。但し、花嫁は自分で見つけます」

 断固として結婚だけは父親の言いなりになる気がない郁未だ。それに対抗し、父親も負けてはいない。

「いや、花嫁はもう決まっている。私の古い友人の娘だ。しっかりした両親の許で素直に育てられた、実に感じの良い娘さんだ。お前には勿体ない程の相手だぞ」

 父親の古い友人。これまで父親との会話に登場したそれらしい人物を探るが、郁未の記憶では思い当たる人はない。そもそも、父親の古い友人であれば郁未は面識があるはずだ。
 明らかに、これは縁談をまとめる為の策略に過ぎない。

「お前にはまだ話した事も会わせた事もない相手だ」

 フッと笑みを浮かべる父親に裏を読まれていた郁未。
 策略ならば、何かしらの手立てが打てると思っていたが、どうやら父親の方が一枚上手の様だ。

「兎に角、明日にはその友人から連絡が入る。一度会わせるから、そのつもりでいなさい」
「会いませんよ。どうしてもと言うのなら愛人を同席させます。覚えておいて下さい」

 その後も、睨み合う二人の会話は平行線を辿る。

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