あなたとホワイトウェディングを夢みて
まるで地獄から天国へ来た気分だった。
男勝りで強靭な神経に、男以上に容赦ない蔑みな視線をする相手では、どう頑張ってもベッドに誘う気になれない。
しかし、これなら多少の我慢どころかすんなりと、留美を女としてこの腕に抱ける。
留美も案外と普通の女なのだと喜びさえ感じる。ならば、他の女と同様に甘い言葉を囁き、高価な宝石の贈り物をし、豪華なホテルのディナーへ連れて行けば、きっと留美を手に入れられるとそう甘く考えていた。
(まずはデートだ。ディナーへ誘いだし部屋へ連れ込んで、キスしたら一気に押し倒し、俺は晴れて自由の身だ)
郁未の頭の中では、父親の俊夫を負かして悦に入る姿を思い描いていた。
思い立ったが吉日ではないが、すぐに実行に移すべしと、郁未は今夜にでも留美と一晩過ごそうと画策する。
「専務?」
画策する郁未がつい自分の世界へ入り込み百面相を始めた為、留美は気味が悪くなり触らぬ神に祟りなしと、データの入ったメディアを茶封筒ごとデスクの上に置いて、そそくさと部屋から出てしまった。
(今日の専務も変だったわね。昨日のハバネロに当たったのかしら?)
すると、丁度そこへコーヒーを運んできた秘書の山本と鉢合わせする。
「あら、待たせてしまってごめんなさい。これ、お願いしますね」
いきなりトレーごと山本に渡され、つい手に取ってしまったものの『これ何ですか?』と質問する。
「あなたと専務のコーヒーですよ」
秘書に笑顔でそう答えられた。