あなたとホワイトウェディングを夢みて

 ハーレム集団の視線が気になる田中は、ランチを食べた気にならずに食事を終えた。社員食堂を出た時はゲッソリと窶(やつ)れ顔に変わった田中だった。
 そんな田中など気にも留めずに、留美は食したランチの満腹感に満面の笑みを浮かべて食堂を後にする。
 二人は情報処理課へ戻ろうとエレベーターホールへと向かった。

「よーし、午後からの仕事も頑張るぞ!」

 しっかり栄養をつけた留美の足取りは軽く、午後からの仕事にも意欲満々の勢いだ。
 その反面、専務に睨まれていないか不安な田中は、留美の後をとぼとぼと覇気の無い顔で歩いて行く。
 今日のランチは忌々しき問題で、田中としては死活問題だと思えた。

「どうしたんですか? 元気ないですね?」

 万が一、このことで専務からお叱りを受ければ、自分の印象を悪くすると懸念する田中の気も知らず、呑気な留美はケロッとした顔で訊く。

「何か悩みでもあるんですか?」
「十分あるわよ。私にとっては生きるか死ぬかの問題なのよ」

 本当はその後に、『もし、ここで専務にマイナスイメージ与えて、これから二人の出会いがなくなったらどう責任取ってくれるの?!』と、言いたい田中だった。
 しかし、壁に耳あり障子に目あり。万が一、専務の耳に入ったらと思うと、田中はグッと我慢した。
 すると、案の定、田中の背後から、恐ろしくも魅力的な、夢にまでも見たセクシーな声が聞こえてくる。

< 8 / 300 >

この作品をシェア

pagetop