あなたとホワイトウェディングを夢みて

 いけ好かない御曹司なのに、少しずつ離れていく唇が愛おしい。それに、マシュマロを食べたような甘ったるいキスも名残惜しい。

「続きは後で」

 囁く郁未の指先が車の前方を指差す。
 半ば呆然としていた留美だが、言われてハッと気付いた。
 今は信号待ちで交差点のど真ん中に停車中だ。
 隣り合う歩行者専用道路を行き交う人らの視線を感じ、横目でチラリと窓の外を覗くと、歩行者が立ち止まって赤面しながら見ている。

「ヤダっ」

 思わず両手で顔を隠した留美が運転席の方へと身を寄せた。
 すると郁未からクスッと微かに笑い声が聞こえる。その声を不愉快に感じた留美が顔を上げると、『綺麗だよ』と突拍子もないセリフが飛んでくる。

「あの……」

 見つめられる郁未の瞳がとても優しくて、赤面する留美は羞恥心でいっぱい。身の置き場に困り、シートに深く座ると頭を下げて大人しくなる。

「さあ、出発だ」

 車が動き始めると歩行者の視線もなくなりホッとする。すると、横から手が伸びて来て頭を軽く撫でられる。その手の平の大きさに、郁未は大人の男性なのだと改めて思い知る。
 そして手の温もりに、さっきまでの羞恥心は何処かへ吹き飛んでしまった。
 一度目のキスは最悪だった。痛くてヒリヒリして苦い思い出。
 だけど二度目のキスは、心の底からポカポカと温まる、とても甘くて蕩ける砂糖菓子のような一生忘れられない思い出になる。
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