狼上司の不条理な求愛 -Get addicted to my love-
「…………」

返してほしい。
一瞬でもあなたにトキめいた、あの時間。

数分後。
我々は近くのベンチに、1人分の空間を空けて隣り合わせで座っていた。

お腹を押さえ、額に汗の粒を浮かべる大神さんの回復を待っているのだ。

「………」
「………」

気詰まりに耐えきれなくなった私は、仕方なく彼に声をかけた。

「あの……どうぞ?未使用ですから」

彼の口許には、さっきの彼女の厚化粧、紅のリップがまだ色濃く残っている。
私はバッグから取り出したハンカチを彼に差し出した。
上司に恥をかかすわけにはいかない。

「ああ……ありがとう。洗って返すよ」
「イエ結構です。差し上げます」
 
限定物だったが仕方ない。だってキモチ悪いもん。
お口をフキフキ大神さんは、ポソッと一言呟いた。

「ちょっと……しくじったな…」
「彼女さん、ですか?」

「いや、オトモダチ」

友達とチューすんのかい、テメーは!
突っ込みたいが、上司なので我慢する。

「赤野」
「はい?」

「そう言えばさっき、飲みに行くって約束したしよなぁ……」
「いっ…⁉」


そう言えば食堂に行く前、そんな約束してたっけ…
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