カワイイ子猫のつくり方
その後も朝霧は千代に仕切られっぱなしだった。

風呂に入れるのも、何だかんだと横から手と口を出しては世話を焼きたがる千代の様子に、朝霧は素直にその役を譲った。

広い洗面台の上、まずは湯桶の中で身体を綺麗にして貰う。


(…あったかい…。すっごく幸せな気分…)

雨に打たれたことで、思いのほか身体が冷え切っていたようだ。

シャンプーをしても、洗面台のシャワーでお湯を頭から掛けられても、ホカホカであまりに気持ち良くて大人しくされるがままにしていたら、「あなた小さいのに、とってもお利口さんね」そう言って千代は優しく頭を撫でてくれた。

(千代さんの手って優しい…。うちのおばあちゃんみたいだ…)

実琴は数年前に亡くなった祖母を思い出して、ちょっぴり切なくなった。


「はい、綺麗になりましたよ」

千代は、そう言って笑うとタオルを持って横に立っていた朝霧へと実琴をそっと手渡した。

「…ありがとう、千代さん」

今度は、ふかふかのタオルに包まれて幸せな気分になる。

それが朝霧の手の中だと考えると、ちょっぴり複雑だったけれど。

「後でミルクをあげましょうね」

千代は満足気に微笑むと、他の仕事があるのか、またどこか別の部屋へと移動してしまった。


一人残された朝霧は。

静かになった洗面所で再び小さく溜息をついた。

タオルにくるんで水気を拭き取ってくれているその手は、思いのほか優しかったけれど。
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