彫師と僕の叶わなかった恋
決  意
決 意 ・・・・1

僕は安藤マサル。

平凡な名前のせいか、あまりパットしない人生を送っている

45歳のフリーター。

高校を卒業して最初は食品工場で社員として働いたが、それも三年間勤めて

辞めてしまった。

次は機械部品の棚卸やコンビニの店長などを勤めたが、辞めた理由の全てが

“こんな辛くて、面倒臭い事やってられない”と言う理由で辞めてしまい

職を転々としていた。

そんな僕にも人生の転機が訪れた。

あるお見合いサイトのパーティーで、僕が42歳、妻の由利が40歳の時に

出会い一年間の交際を経て結婚する事になった。

僕をパートナーに選んでくれたのは“優しかったから”だそうだ。

それからの僕は、結婚するからには就職をしなくてはと

その時に成って初めて真剣に就職活動を行った。

しかし、世の中それほど甘くは無く、中々仕事が決まらない。

ようやく今の零細企業に就職が決まり、契約社員の営業マンとして働いているが

朝は五時に起きて、一時間半も揉みくちゃにされながら出勤し

一日中外回りをした上に会社に戻ると書類仕事が待っていて

会社を出るのが終電ギリギリ位の時間で

睡眠不足な毎日を送っていた。

その上、毎月の小遣いは一万五千円。

とてもじゃないけど節約しないとやって行けず、楽しみと言えば

客先と客先との訪問の間に飲む缶コーヒーとタバコだけだけど

それでも節約して休憩は一日、二回だけにしている。

給料は固定給+歩合制で、歩合が付く分、固定給は少なかった上

僕は人と話すのが苦手で営業成績が悪かったから、手取りが新卒社員と

ほとんど変わらなかった。

給料の面では、妻の由利の方が少し多かったので

僕は由利に頭が上がらなかった。

結婚当初は、僕達もお金など関係なく新婚生活を楽しんでいたけど、

やっぱり給料の格差が段々と溝を深めて行き

最近の由利の口癖は

「休だからって言ったって、一日中家でゴロゴロしてないでよ。
そんな暇が有ったらアルバイトでもして、家計を助けてよ!」

と休みごとに言われる。

僕は

「うるさいなー休みの日くらい、疲れてんだから少し寝かせてくれよ」

と毎週、由利と喧嘩して終わってしまう。

また、三年経った今でも僕達には子供が出来ずそれもお互いの溝を深める

一つの要因となっていた。

そんなある日、僕が会社に出社すると皆なが、ザワザワしていたので

聞いてみると以前から社内でも噂になっていた“リストラ”の話が

本当なるかも知れならしく、後日、対象者が発表になるとの事だった。

僕は契約社員と言う事もあり、対象になっている事を恐れ

その事は由利には話をできないでいた。

契約更新の日まではまだ先だけど、三十日前に会社の方からその旨伝えれば

解雇出来る事は知っていたので、内心不安で、不安で仕方が無かった。

リストラを恐れながら毎日を過ごしていたがとうとう対象者の発表日が

来てしまい僕の不安は的中した。

僕は営業課長に部署の誰よりも早く、会議室に呼ばれた。

この事を由利には、何て説明すればいいのだろう?こうなると僕は当分の間、

由利の給料で食べて行かなくてはならず、次の仕事が見つかるまでは、

由利に頼って暮らす事になる等と考えながら思い足を引きずって家まで帰った。

それでも僕は、由利に正直に話す覚悟を決めたが、中々話を切り出せないでいた

“明日から行く所も無いし、何時かは分ってしまう事なので

ちゃんと話してしまおう”と決心して正直に由利に話をする

覚悟をようやく決めた。

「由利、話があるんだけど」

「ようやく散々言って来たアルバイトをする気にでもなったの」

「うん、それは探すよ。でも今回の話はちょっと違うんだ。
実は・・会社からリストラされてしまって・・・・」

アルバイトの話だと思っていた由利は、いきなり“リストラ”の話を持ち出され

ビックリした顔をしていきなり怒鳴りつけてきた。

「何ですって、じゃあ、これからどうやって生活してくのよ
だからあれ程アルバイトでも探しとけって言じゃないの!これからどうするの?
あたしのお給料だけじゃやってけいからね!

何でもいいからとっとと仕事を探してよね!」

と言って由利は冷蔵庫から缶ビールを取り出し一気に飲み干した。

それでもまだ、怒りが収まらないのか、また新しいビールを開け

それも一気に飲み干し部屋から出て行ってしまった。
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