彫師と僕の叶わなかった恋
決 意 ・・・・2

次の日から僕は、ハローワークと、昨日書き上げた履歴書数枚を持って

街に出て店頭のアルバイト募集の広告を探して回った。

ハローワークは、転職を繰り返し中途半端な経歴が祟り

まったく歯が立たなかったがそれでも諦めずに通い続けた。

アルバイトの方は、面接はしてくれるものの

「結果は後日改めてご連絡しますが
もし連絡が無ければご縁が無かったと思ってください」

と言われるばかりで、いつまで待っても一向に電話は掛かってこなかった。

そんなある日、帰宅するとまだ由利は帰って来て無いらしく

部屋は真っ暗だった。電気を付けて何気なくテーブルを見ると

妻の名前とハンコが押してある緑色の紙が置いて有り

その横には手紙が置いてあった。

手紙には“もうこんな惨めな生活には耐えられないから出てくけど

マサルなら大丈夫だから頑張って”と書いてあった。

僕は“何を頑張れって言うだ。まだ仕事も見つかって無いのに!

こう言う時こそ夫婦が助け合うのが普通だろう”

と余りにも一方的な別れ話に頭に血が上り、僕は冷蔵庫に有った缶ビールを

昼から節約の為に何も食べていない胃袋に一気に流し込んだ。

飲み終わると更にもう一本と立て続けに二本のみ離婚届に

名前を書いてハンコをつき“明日の朝一番で役所に出してやる”

と離婚届に絡み、寝てしまった。

翌日、離婚届を出しに行こうかと思ったが“これを出してしまえば

俺達これで本当に終わっちゃうんだな”と少し未練がましくなり

“今直ぐ出さ無くていいか、当面はアルバイトを探して、アルバイトが見つかり

生活が出来るようになってから、由利に連絡をすれば、きっと戻って来るだろう”

と思ったので離婚届を引き出しの中にしまい込み、また由利を取り戻す為に

アルバイトを探しに出かけた。

数日後、コンビのしかも夜間の仕事が決まった。

嬉しいことに、二十二時から翌朝の六時までの勤務で時給も千百円と

有りがたかった上に、シフトを週五日入れてもらう事ができたので一安心できた

コンビニのバイトは、最初こそキツかったものの

慣れて来ると仕事の手際も覚え段々とバイト仲間も出来

楽しく仕事が出来るようになった。

アルバイトも決まり、ようやく落ち着いて来たので由利に電話を掛けたが

いくら電話をかけても留守電になってしまい、メッセージを入れても

連絡が来ることは無かった。

どうしたんだろう?まだ怒っているのかなと思ったが、そのうち掛かって

来るだろうと思い、由利からの電話を待ちながらコンビニでの仕事をしていた。

そんなある日、僕はコンビニのアルバイトに行く前に髭剃りを買いに

ある繁華街の大型家電店に行った。

買いたい商品は調べてあったので、直ぐに見つかり、アルバイトの時間まで

余裕も有ったので、少し繁華街をぶらつく事にした。

ぶらぶらしていると、見た事の有る後ろ姿の女性と、若い男が手を繋いで

歩いているのが目に入った。

僕はまさか、と思ったけど余りにも似ていたので

足早に正面に回り顔を確かめた。

やっぱり由利だ!

もう一人の男は誰だか分からないが仲よさそうに繁華街の中で手を繋いで歩いている。

僕は由利に「こんな所でなにしてんだ。何度も電話したのに」と怒鳴った。

由利は少し驚きつつも

「別にあなたとは、もう関係が無いんだからほっといてくれる」

と冷たい口調で言い、一緒に居た男の方を向き

「リュウヤ~ごめんね、何でも無いから早く行こう」

と男の手を取り歩き出した。

男が「どうかしたの?知り合い?」と横から口を挟んで来た。

由利は「昔の旦那。だけど、離婚したからもう関係ない人なの。

ね、早く行こうよ」と言ってその男と一緒に、僕の前から立ち去ろうとした。

僕は頭に来て

「あの離婚届はまだ出してないから、戸籍上はまだ夫婦なんだぞ」

と言い返してやった。

由利の怒りは頂点に達したらしく

「いい加減にして、もう私に付きまとわないで
あなたとの惨めな生活は忘れたいの!」

と人目もはばからず金切り声で叫んだ。

すると、リュウヤと呼ばれている男が

「事情は良く知らないけど、本人がもう無理って言ってんだから
付きまとわらないであげた方がいいんじゃない?」

とまた口を挟んできたので、僕は惨めになり

「お前みたいなチャラチャラしたヤツに何が分かるんだ。
夫婦の問題に口出すな」

と八つ当たりしてしまいったが、後でしまったと思ったが遅かった。

「人の事何とか言う前に、あんたこそ何やってんだよ
聞いた話じゃアルバイトだろ?
それで由利を食わせていけるのか?人を蔑んだ様な事言って。
だから由利に逃げられんじゃないの。少しは成長しろよ」

とリュウヤと呼ばれる男に自分が目を背けて来た事を

真正面から言われてしまい返す言葉が見つからなかった。

僕は、去っていく二人を見守り、翌日、離婚届けを役所に提出した。
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