彫師と僕の叶わなかった恋
出会い・・・・7

そんなある日、夜中に僕の家のドアをノックする音が聞こえた。

僕は翌日が休みだと言う事も有り、その日は少し遅くまでテレビを観ていた。

ドアを開けると、そこには泣いている由利が立っていた。

どうしたのか聞いてみても泣いているだけで訳を話そうとしない。

玄関先でいつまでも泣かれているのも困るので、家の中に上がるよう促した。

部屋に入っても由利は泣き止まず、何時まで経っても訳を話してくれない。

仕方が無いので、僕は落ち着かせようと思い温かいココアを淹れて

由利に渡した。

由利はそれを一口飲んで少し落ち着いたのか涙を拭いた。

僕は「どうしたの?何があったの?」

と由利に聞くと「何でも無いの、近くに来たから寄っただけだよ」

と鈍感な僕でも分る様な嘘をついた。

「そうなんだ、わざわざ寄ってくれてありがとう。
そう言えば、前に一緒にいた彼氏とは上手く行ってるの?」

と聞いてみると、由利は首を横に振った。

「別れちゃったのか、残念だったね」

すると由利は、急に怒り出し、

「何にも知らないくせに残念だったとか言わないで!」と喚きだした。

僕は由利が何故、家に来たのかも分らないまま怒られてしまった。

「ちょ、ちょっと待って、いったい彼と何があったの?もしかして、それが原因で僕の所に来たの?」

仕方が無いので僕は聞き役に回り

あまり刺激しないような言葉を選んで質問した。

「気に障る様な事を聞いゴメンね、でも本当の所、こんな夜中にどうしたの?
しかも泣きながら僕の所に来たからちょっと心配になってさ」

由利は小さな声で「ごめん」と言った。

でも、何か話したそうな感じだけれど言い出せないでいるようだった。

そこで僕は「力に成れるような事があったら何でも言って」

と言って先を促してみた。

すると由利はぽつりぽつりと話始めた。

「前にマサルと会った時に一緒にいた男、覚えてる?」

「え、あ、うん、覚えてるよ」

「あの男、リュウヤって言う名前のホストなの」

僕はやっぱりそうだったのかと思った。

「で、そのホストの人がどうしたの?」

「最初は凄く優しくて、一緒に居ると寂しさも忘れられたの」

「そうだね、一人は寂しいもんね。僕も時々寂しくなるよ」

「でね、あいつから結婚しようって言われてちょっと嬉しくなってたの」

ん、男から“あいつ”になったぞ、何か嫌な予感がするな。

「そっかー良かったじゃん」

「良くない!」

とまた急に由利が怒り出し、また由利は黙り込んでしまった。

何を聞いていいのか僕は分らなくなり、暫く由利と見つめ合った。

するとまた少しずつ、由利が話始めた。

「あいつが、結婚するのにこのまま使われている立場でいたくないんだ
自分の店を持って、もっと稼いで由利に楽くさせてあげようと思ってんだ」

って言ってくれたの。

「で、どうしたの?」と話を促した。

「あいつが知り合いの店を任せてもらえるようになったんだけど
担保で五万円入れるのが条件だったらしくて、あいつが二百万円しか
貯金が無くて期日が明日までで、色々当たったけどお金集まらなくて
もう頼めるの由利しかいないんだ」って連絡が来たの。

「まさか、貸したの?」

「うん、あいつの夢だったし、結婚してお店が順調に行けば私も嬉しかったし」

家に泣きながらこんな遅い時間に来た意味が何となく分かったけど、まさか?

「お金貨した後、あいつと連絡が取れなくなっちゃて
・・・・私はあいつが持って来た契約書の連帯保証人の所に
サインしただけなんだよだけどそこが闇金だったの
・・私、何にも知らなかったの」

と由利はまた泣き出した。

僕は困ってしまった。

助けてあげたいけど、僕だってそんな大金は持っていないし

でもそんな所からお金を借りて返せなければ

この先由利はどうなるのだろうと想像しただけでも怖かった。


由利は唐突に「お願いマサル、二十万円貸して。お願いだから」
「そんなのいきなり言われても僕だってアルバイトだし貸せるお金なんて持ってないよ」

「それじゃあ十万円でもいいから、お願い」

「由利、ごめん。本当に無いんだ、君のこの先を考えたら
今は別れてしまったけど、元夫として助けてあげたいけど、
十万円も君に貸したら僕が生活出来なくなっちゃうから
頼りがいが無くて済まないけど、諦めてもらえないか」

と僕は由利に諦めてもらおうと必死に説得した。

「分ったマサル、もういい自分で何とかするから」

と由利は覚悟を決めた様だった。

そんな由利を見て申し訳なくなり僕は

「今日はもう遅いから泊まっていきなよ」

とせめてもの償いとして言った。

由利には布団で寝てもらい、僕は安物のソファーで眠った。

翌朝起きると由利の姿が無かった。
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