彫師と僕の叶わなかった恋
交 差 ・・・・4

でも無事、お会計も済みAkiさんとお店でもらったガムを噛みながら

新宿駅までAkiさんを送ると、Akiさんが

「次は私がビックリさせるから待ってて下さいね」

と言って改札口を通り過ぎて行った。

次があった!

僕は今回だけで満足だったのにAkiさんから直接次の約束をしてくれ

更には、Akiさんがビックリさせてくれるなんて考えもしていなかったので

僕はその日、興奮を抑えるために久しぶりにビールを飲んで寝た。

★★Akiは帰りの電車で後悔していた。

自分でも何故あんな事を言ってしまったのか

まったく理解できないでいた。

マサルとの食事は会話も弾み楽しかった。

でも“この間、距離を置こうと決めたばかりなのに

次は私が・・・・”などと何で言ってしまったのだろう。

このまま無視する訳にも行かないし“と、自分で自分を責めていた★★


2回の目彫る日の予約はすんなり取れた。

また、1ヶ月先になってしまったが、僕にはあのAkiさんの一言が

嬉しくて毎日が楽しくてしょうがなかった。

そんなある日、ガソリンスタンドに全身和柄のTATTOOが入った

おじさんが入って来た。

「手洗いで撥水洗車頼むは」と言ってお客様席の椅子にどかっと座った。

僕は「失礼ですが、お客様のお名前を頂戴してもよろしいですか」

と恐る恐る聞いた。

「千野だ」

「ありがとうございます二十分少々お待ち下さい」と言って洗車を始めた。

洗っていると、バンパーに何本かの薄い擦り傷が有るのを見つけた。

洗車が終わり、洗車代金をもらった後に僕は

「千野様、バンパーに小さな擦り傷が幾つか入ってますが、コンパウンドで消せると思うので無料でサービスさせて頂いてもよろしいですか?」

と聞くと、千野と名乗るおじさんは

「おお、いいのか、じゃ頼むわ」

と言って雑誌をめくり始めた。

コンパウンドで擦ると傷は目立たなくなり綺麗に仕上がった。

「千野様、大変お待たせいたしました」

と言い作業が完了した旨を伝えると。

「おお、目立たなくなってるな~、これ位で直すのも、もったいないしな~

って思ってたから助かったよ、ありがとうな」と喜んでくれ、僕も嬉しかった。

その後も何度か千野と名乗るおじさんはガソリンスタンドに給油に来てくれて

会うと「元気か」と声を掛けてくれる様になった。

今度は、忙しかったせいも有り、時間が過ぎるのが早く、気が付くと予約日

の当日になっていた。
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