彫師と僕の叶わなかった恋
交 差 ・・・・3

するとまた「嘘ですよ、本当に面白い人ですねマサルさんは」

と、Akiさんは言いながら、いつもの笑顔を見せてくれた。

完全にからかわれていた。

「じゃあ、美味しいお店を探しておいてくださいね」

といい道具を片付け始めた。

僕は成功するとは思ってもいなかったので暫く

ボーとなってしまっていた。

するとAkiさんが

「お店の休みが水曜日なんで、早めに連絡もらえれば
空けておきますか、メールで連絡して下さい」

と休みの日まで教えてくれた。

僕は「必ず御期待に召すお店を探してみせますから」

と、興奮して自分でも訳の分らない言葉を発していた。

店を出てから家に着くまで、ずっとニヤニヤしていたようで

帰ると頬の筋肉が痛くなっていた。

その日中にお店を探して決めたが、直ぐには連絡しなかった。

★★Akiは、あんなに簡単に約束してしまった事に自分でも

驚くと共に後悔をしていた。

確かにマサルに心を開き始めてしまっているが、過去に起こった事に

まだ心の整理が出来ていない。

それにレイの言う事も一理あり、マサルとは住む世界が違い過ぎて

このまま彼を引きずり込めば、彼はどんな事をしてでも彫り続けるだろう。

それだけはダメだ、これで最後にしよう、この食事に行く事で

いい思い出として、もう彼とは初めて会った時のような距離を置こうと

自分自身に言い聞かせ★★

それから2、3日して、僕はAkiさんにメールで

来週の水曜日は空いているかどうか連絡をした。

翌日Akiさんから “空けときま~す” とメールが入っていた。

僕はパソコンの机を叩いて大喜びした。

勿論、お店の名前は秘密にしておき

“新宿駅に七時、小田急デパートの地下のエレベーターの
辺りで待ち合わせましょう”

とだけ書いて再度メールを送った。

当日、僕は銀行でお金を下ろし、新宿へと向かった。

新宿に着くと、ラッシュ時間という事も有り人がごった返していた。

僕はその時初めて失敗したと思った。

こんな人混みの中でAkiさんを見つける事が出来るだろうか?

そう言えば携帯の電話番号も知らないのに、大失敗だった。

僕は、小田急デパートのエレベーター乗り場を行ったり来たりして

Akiさんを探した

すると、突然僕の携帯電話が鳴った。

見知らぬ番号からの電話だった。

不審に思ったが、電話に恐る恐る、出てみると

「Akiで~す!後ろに居ますよ」

と言われ振り返るとAkiさんが立っていた。

いつもはジーパンにパーカーなのに今日は薄茶色のパンツに白のシャツと

素敵な恰好をしていた。

これでは、電話が掛かって来なかったら

僕は絶対に見つけられなかっただろう。

会うといきなりAkiさんが近づいて来て

「個人情報の漏えいですが訴えますか?」

とまた悪戯っ子の様な顔で聞いて来たので

僕は「いいえ、今回は緊急時だったので訴えるつもりはありません」

と笑顔で答えた。

それから二人で温かくなってきた新宿の街を歩き

ビルの二十六階にある焼肉店に入った。

僕はそこの窓側の席を予約していた。

何故かと言うと、そこからは新宿の夜景が一望出来るからだった。

Akiさんは予想通り「わーすごーい、とても綺麗―
一人だと中々こんな所来られないから嬉しー
マサルさんよくこんな素敵なお店知ってましたね」

と凄く喜んでくれたので、ちょっと高かったけど頑張ったかいがあった。

お肉を食べるAkiさんは上機嫌だった。

「わ、ここのお肉凄く美味しいですね」

「何か追加しますか?」

「あ、じゃあカルビとタンを追加しましょうか」

「そうですね」

「あれ?マサルさん食べないんですか?」

「いえ、食べようと思ってるんですけど
焼けるとAkiさんが持ってちゃうんで、僕は焼く係に回ってます」

「あ、ごめんなさい、今度は私が焼く係になるから
マサルさん食べて下さい・・・・ってお肉ほとんど無いですね
・・・・すいません」

「いや、今日はAkiさんが満足してくれれば嬉しいんで大丈夫ですよ

この間倒れた時に付いててくれたお礼もしていなかったし」

「そうだ!マサルさんは栄養不足だから倒れたんですよ

ちゃんと食べて下さい。すいませ~ん、カルビやっぱり

三人前で追加してくださ~い」

僕は心配になって来た。

銀行には寄ったので大丈夫だとは思うけど、

もし足りなかったらと思うと冷や冷やして

僕はカルビが喉を通り過ぎる度に不安を募らせた。
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