彫師と僕の叶わなかった恋
障 壁
障 壁 ・・・・1

僕は家に帰って早速お弁当箱を開けた。

中には色とりどりの野菜やお肉などがバランス良く入っており

味付けも文句なかった。

思わず“あ~あ、こんな人が奥さんだったらな~”

とつい思ってしまった。

僕は一人暮らしを始めてから初めて、手料理を口にした。

美味しかった、一口食べるごとに段々と涙が出て来てしまい

最後は泣きながら食べていた・・・・。

それから数日して、最後の彫の予約をしようと

スタジオに電話するとレイさんが出た。

“あ、レイさんが出てしまった”と少し後悔した。

この頃の僕は、レイさんがトラウマになっていて

レイさんを避ける様になっていた。

「すみません、安藤ですが予約をお願いしたいんですが」

と言うとレイさんは思いっていたのと違い、素直に空いている日にちを

教えてくれた。

僕はレイさんの事を勘違いしていた様だ、前の事は、元々は僕が悪かった

のだから怒られても仕方が無かった事で、本当はいい人なんだなと思い

予約の取れる一番最短の日で予約をお願いした。


が、しかし、レイは予約表に、マサルの予約を書き込む事はなかった。


3回目の予約日、スタジオに行くとレイさんがまた、

カウンターに座っていた。

「こんにちは、予約した安藤ですが、Akiさんいますか?」

と言いながらスタジオに入った。

すると「今日はAkiさん休みですよ、それに今日は安藤さんの予約
入ってないですけど」

とレイさんは自分で受けた予約を予約してないと僕に言った。

僕は「先日、レイさんが電話に出て予約してくれたじゃないですか」と

この嫌がらせに抗議した。

レイさんは「え、そうですか?でも予約入ってないし
何かの間違えじゃないですか?」と更にしらを切った。

「それなら、今日このまま、予約する事は出来ますか?」

と僕はいった。

レイさんは「今日はAkiさんがいないのでAkiさんの
予約は取れないですよ」と突っぱねられた。

証拠はないし、このままだと、絶対にこの間みたく最後は

“土下座しろ”とまた言いかねないので僕は

「それならまた、Akiさんの居る時に電話で予約を取るので
今日は帰ります」

と言ってスタジオを後にした。

僕は何でレイさんに、ここまで嫌がらせを受けなければいけないのか

全く分からなかった。これは幾らなんでも酷すぎると思っていたが

どうする事も出来ない自分に対しても腹が立っていた。

それから何日かして、僕の勤めているガソリンスタンドに

一台の車が入って来た。

このスタンドは、本社と近隣住民の方達との取り決めで

営業が夜の22時まで、洗車は21時30迄と決められていた。

そして、夜はそれほど車も来ないので2名体制で営業し

僕は当番の日は所長代理として勤務していた。

その車は21時近くにやって来て、事務所の前に車を止めた。

中から若い男の子が降りて来て

「洗車お願いします」と言いながら事務所に入って来た」

僕は「すいません。洗車は21時で受付を終わらせて頂いておりまして」

と受付時間が過ぎている事を伝えた。

すると、その子は「あ、じゃあまだギリギリセーフだったね。
よかたー、そしたら、あの水弾く撥水洗車って言うのを、お願いします~」

と、僕の話を全く聞いていなかったかの様に、一番時間の係る

洗車のオーダーを言って来た。

僕は、再度「お客様、すみません、洗車の方は九時で受付終了させて
頂いてますので、今から洗車の受け付けは出来ないのですが」

と受付時間が過ぎている事を伝えると、その子の態度が一変した。

「ここで注文したのは20時59分だったぜ21時終了ならまだ
ギリ間に合ってんじゃん。俺、急いでんだからグダグダ言ってないで
早くやれよ」と凄んで来た。

良く他のお店とかで聞く通称“ヤカラ”と呼ばれる要注意人物だ。

これは単なる嫌がらせで、憂さ晴らしか、金目当てかのどちらかだと

聞いた事が有るけど、うちのガソリンスタンドには初めて来たので

対処法が分らない、仕方なく僕は被害をこれ以上は大きくしたく

無かったので、洗車を受ける事にしてしまった。
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