彫師と僕の叶わなかった恋
決 意 ・・・・3

僕は親孝行も出来ぬうちに両親を亡くし、唯一の心のより所が由利だけだった。

その由利までが今はもう去ってしまい、僕は本当に天涯孤独の身になり

これから先の事を考えると恐ろしくなった。

“由利の言う事をもっと真面目に聞いておけば良かった”

と全てを失ってからようやく気が付いたが、それは遅すぎた。

それから僕は、アルバイトも休みがちになり、自暴自棄になって

毎日深夜まで何件も梯子して、朝まで飲み、家に帰ってまた缶ビールを飲む

といった生活を繰り返していた。

そんな生活をしいたある日、酔い覚ましに座っていたガードレールから

ふと見上げるとTATTOOの看板が目に入って来た。

今更、失うものなんてないし、俺もTATTOOでも入れて

少しはこの惨めな人生を変えてみようかなと思ったが、

その時はリュウヤの顔が浮かび

“あんなもん入れて、チャラチャラしたヤツになんてなるものか”

と思い直して、また別の店を探しに夜の街へと、フラフラ歩いて行った。

今までは由利が慰謝料替わりに置いて行った五十万円で何とか生活をしていたが

それも底をつき始めたし、最後の最後まで由利の世話になりっぱなしで

何も出来ない自分に腹も立てていたので、僕はもう一度やり直さなければ!

少なくとも自力で生きなきゃといけないと思い、また仕事を探しに出かけた

何日も探して、ようやくガソリンスタンドでのアルバイトに採用された。

工業高校だった僕はガソリンスタンドで必要な乙四免許を持っていたので

何とか採用される事が出来たのだ。

そこはセルフサービスのガソリンスタンドなので、お客さんが自分で

ガソリンを入れるから、仕事は楽だろうと思っていたけど、以外にやる事が

多くコンビニよりも体力を使う仕事で慣れるまではいつも息を切らし

ゼイゼイ言っていた。

そのバイト先では高校生が多く、ちょっと場違いな感じで

少し距離を置かれていた。

が、何故か一人、立川君と言う男の子は親切に仕事を教えてくれたり

休み時間や仕事の合間に話し掛けてくれたりして、仲良くしてくれていた。

その立川君がある日、にやにやしながら近寄って来て

「マサルさん、ちょっとこれ見て下さいよ」と言い左腕の袖をめくり上げた。

そこには厳つい顔をしたドクロのTATTOOが入っていた。

僕は驚いた、今までこう言ったものに縁がなかったので、言っていいか判らず

「すごいね」とだけ言ってあげると立川君はそれに気を良くしたのか

どのように彫ったか、幾らくらい掛かったか

など自慢げに話していた

僕は心配になり「そんなの彫っちゃって学校とか平気なの?」

と聞くと、立川君は笑いながら

「大丈夫っすよ、友達も殆どのヤツが、彫ってますから」

とTATTOOを褒められ嬉しかったのか、機嫌良く喋っていた。

その時は、僕にあまり興味のない話だったので、何を話しているのか

全く理解できなかったので、ただ話を聞き流していた。

TATTOOを入れてから、立川君は店長が来ると長袖を着て店長に

TATTOOがばれない様にしていた。

僕は、その様子が面白くて、たまに

「今日、店長が午後から来るらしいよ」と嘘を付いて着替えさせたりして

僕らは悪ふざけをしながら楽しく仕事をしていた。

でも、そんな楽しい時間はバイトの時だけで、家に帰ると迎えてくれる

人も居無い、薄暗い部屋で、一人でカップ麺を啜り風呂に入って寝ると

いった生活の繰り返しで、アルバイトで生活は出来るものの

遊びに使えるお金など有る筈も無く、休みの日は食材を買いに行くか

洗濯するのが殆どで、最高の贅沢は一日中レンタルのDVDを観る事だった。

季節は春を迎え、高校生だった立川君は高校を卒業し

車の整備士の専門学校に通う為、ガソリンスタンドを辞めてしまった。
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