彫師と僕の叶わなかった恋
二人は静かに・・・・7

海は五月の心地良い風と真っ赤に染まった夕日が空一面を覆っていった。

Akiさんは意識を取り戻し僕に抱えられて

側に有った流木に二人で腰かけた。

僕はAkiさんが寒くない様に、着ていたジャケットをAkiさんの肩に書け

助けてもらった時に

「飲めないんです~」

「嘘です」

で盛り上がった“紅茶”をAkiさんの手にそっと握らせた。

もう、飲む事が出来ない事は知っていたが少しでもあの頃の思い出を

思い出して欲しかったので。

Akiさんは僕の肩に頭を載せて暫く海を眺めていたが不意に

「色入れ途中になっちゃたね、ごめんね」と語りかけて来た。

僕は「そうだね」と一言いいAkiさんの手を握り締めた。

「マサルさんの手温かいね」とAkiさんは弱々しい声で言った。

僕は何も言わず今度は、そのままAkiさんの手を握り締り続けた。

僕はこの時、自分でも不思議だったけど

自然にAkiさんの手を握る事が出来た。

そう、まるでAkiさんを引き留めるかの様に無意識に手を握っていた。

だからこそ僕は、Akiさんに泣き顔を見られたくなかったので

僕はただ海を眺めるふりをしていた。

Akiさんの胸元にはあの遊園地で買ったアヒルのネックスレスが

夕日で輝いているのが目に入った。

僕はAkiさんがあのネックレスを着けていてくれたんだ

と思ったら涙が止まらなくなってしまった。

不意にAkiさんが「マサルさん、泣いてるの?」と僕に問いかけた。

僕は「泣いてなんていないですよ、男の子ですから」

と泣きながらAkiさんに言うと

Akiさんは「フフ」と笑って目を閉じた。

夕日は、段々と沈みかけ、沈む夕日と同調するかの様に

僕に寄り掛かるAkiさんの体の重みが増して行くのが感じられた。

僕は夕日が沈み切るまで、大声で泣いた。

そして、帰り道は、少し遠回りして帰る事にした。

少しでも長くAkiさんと一緒に居たかったから。

少しでも同じ時間を過ごしたかったから。

僕は車の中でAkiさんと出会ってから今までの沢山の思い出を一つ一つを

思い出しながら運転をしていた。

その全てが僕の宝物であり、そして何よりも未完成で終わってしまったけれど

背中のTATTOOはAkiさんがくれた最後の宝物として大切にし

そして、それに恥じない生き方をするとAkiさんに約束した。

横では、Akiさんが、笑みを浮かべて座っている。

「Akiさん、ありがとうございました。これからはAki
さんの彫ってくれたTATTOOに恥じない生き方をするって約束しますね」

とその横顔にささやいた。

でも、もう僕の声は届いていないだろう。

僕は約束通り夜には病院に戻り、今にも起きだしそうな顔をしている

Akiさんを腕に抱きながら病室へと向かった。
                   完
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