彫師と僕の叶わなかった恋
二人は静かに ・・・・6

帰りの車では無理をして疲れてしまったのかAkiさんは直ぐに寝てしまった。

僕は、その横顔を見ながら今日の一部始終を思い出していた。

今日の事、いや今までの事全てを絶対に、忘れないよとその横顔に誓った。

病院に着くと看護師さんに

「こんな時間まで外出許可は出してません!」

といきなり怒られてしまった。

僕はAkiさんがまた“嘘”をつき

僕はまた、まんまと騙された事をその時に気が付いた。

Akiさんはそのまま看護師さんにストレッチャーで運ばれ

病院の中へと消えて行った。

次の日お見舞いにAkiさんの病室に行くと

沢山の機械がAkiさんを囲んでいる。

僕はなにが有ったのか分らず看護師さんに聞いてみると

「そう言う事は、主治医の先生に聞いてください」

と言われてしまい、主治医の先生に会いに行くと

静かに椅子に座るように促された。

僕が椅子に座ると先生は僕の目を見て

「気を落とさないで聞いてください」と前置きしてから

「もう長くは持たないでしょう。今も意識が戻ったり戻らなかったり
を繰り返しています。もし何か患者さんの希望するものがあれば
今のうちにしてあげてください」

僕は先生の目の先を見つめていた。

あの楽しかった遊園地の思い出がフラッシュバックし

初めて手を繋げたのに、それがなぜこんな事に。

まだ、僕は何の勇気も奮えて無いのに、もう少し

神様どうかもう少しだけ僕に時間を下さい。

僕はそう祈りながら泣いていた。

Akiさんの病室に戻ると、Akiさんは眠っていた。

僕はそっと右手を優しく握りしめた。

あっちこっちに機械から伸びた線が体に張りつている。

唯一“ピン・ピン”と脈拍を表示する機械から規則正しく鳴る音だけが

病室内に響いていた。

痛々しくて見ていられない程に。

出会ったころは、機械を駆使して彫を進めていたAkiさんが

今では機械の方が駆使してAkiさんを救おうとしている。

“起きてくれ、起きてもう一度話をさせてくれ”と僕は心の中で何度も祈った。

毎日、毎日、僕はAkiさんの元に付く様にしていた。

たまに、意識が戻るけど

「あ、マサルさん来てたんだ」

と言うとまた意識を失い

また意識が戻ると同じ事を言ったりと、その繰り返しだった。

僕は手を握り締め毎日泣いた。

何もしてあげられない自分が情けなかったし

何時もAkiさんに助けてもらってばかりで

やっと自分で立ち上がる事が出来る様になって

Akiさんに気持ちを打ち明けようと

思っていたのに、僕はまた、何も出来ないままで終ってしまいそうだった。

それで終わりたくは無かったけど、今の僕には“元気になってくれ”

と祈る事しか出来なかった。

そんな願いが叶ったのか、何かがAkiさんに奇跡を起こしたのかは分らないが

ある日、同じように手を握って祈っているとAkiさんが

「マサルさん、海が見たい」と、か細い声で囁いた。

僕は「わかった、海を見に行こう。今すぐにね」

と言って、病院を出て、予約の入っているガソリンスタンドのレンタカーを

勝手に持ち出した。

病院に着き、Akiさんを迎えに行こうと病室に行くと主治医が立っていた。

僕は“やばい、この状態で外出許可なんて出してくれるはずがない。

どうしたらいいんだろう”と考えたが“と悩んだ。

今までは勇気が無かったから失敗してたんだ、思い切って話をして

Akiさんに海を見せてあげよう”と思い主治医に

「Akiさんを海に連れて行きたいんですけど外出許可を頂けませんか
本人の希望なんです」と必死に主治医に語りかけた。

主治医は少し考えて「病院としては、責任は持てませんよ。
そして夜には必ず帰って来ると約束して下さい」

と意外にもあっさりと許可をしてくれた。

僕は意識の朦朧としているAkiさんをパジャマのまま抱き抱え車に乗せた。

Akiさんは車の中では病室で見せていた様な苦しそうな表情では無く

今にも「嘘だよ~ん、やったね~外出できる」

と言いそうな笑みさえ浮かべている。

高速は比較的空いていたので海まで二時間のドライブだったけれど

遊園地に行った時の様な会話は無く静かなドライブとなった。

海に着いた。
< 38 / 39 >

この作品をシェア

pagetop