彫師と僕の叶わなかった恋
出会い ・・・・2

僕はあの子は受け付けの子で、僕が来たことをバリバリにTATTOOの入った

僕の担当の彫師の方に取次に行ったのだと思い大人しく待つことにした。

ここまで来ると不思議と怖くは無くなっていた。

暫くすると女の子が「お待たせしました」と言って戻って来たので

僕は立ち上がり奥に入って行こうとした。

「あ、お掛け下さい、今日はどんな感じのイメージか教えて頂けますか」

と女の子に呼び止められた。

“ああ、今は彫師の人が忙しいからオーダーを聞いて

この子が彫師の人に伝えるんだ”と思っていた。

が、そこで初めて、僕は彫る事しか考えて無かった事に気が付いた。

来れば何かしら彫ってくれるものだと思っていたので

何も考えていなかったのだ。

今更どうしようも無いので

僕は「初めてなんですけど、大体みなさんどんな物をどの辺に

彫ってるんですか?」と正直に聞いた。

女の子は「入れる図案は人それぞれですし、場所もどこって言うのは無いですけど
女の子だと腰とかが比較的多いですね」

と男の僕には・・・・あまり参考にならないアドバイスをしてくれた。

更に僕はアドバイスを求め

「大きさなんかはどの位の大きさの物が人気ですか?」

と僕は、事前にイメージを用意して来なかった失敗を

何とか取り返そうと頑張った。

すると、女の子は何冊かの雑誌を持って横に座り

「まずは、和柄にするか洋柄にするかを決めないと

デザインが決められないですよね」

と僕を見兼ねたのか、優しく教えてくれ始めた。

僕は、和柄は怖かったし、立川君が彫ったドクロがかっこいいな

と思っていたので洋柄にする事にした。

「場所と大きさですね。彫る場所によっては気に入ったデザインでも
彫れない事もあるので」

と女の子が教えてくれた。

僕は“場所か~、目立つところはダメだし大きさも大きいとこれまた目立つし

どうしよう”と悩んでいると

「大体のお客さんが隠せるところに彫るんでさっきも言いましたけど
腰とか肩とか足の甲とかに小さめのワンポイントが比較的多いですよ」

とまた助けてくれた。

そこで僕は有る事を思い出した!

“僕は隠すために入れるのでは無く、それを彫り、見る度に今までの弱い自分から

抜け出す為に彫ろうと思っていたんだ。どうせ守るものなど無い人生なんだし

一人ぼっちで生きて行かなきゃならないんだから、ここは思い切って

自分がカッコいいと思えるものを入れよう”と思い僕は

女の子に「少し雑誌見てデザイン考えてさせてもらってもいいですか?」

と断り、雑誌の気に入ったデザインのページに指を入れながら

自分の求めるデザインを探した。

色々と見比べてようやく好きなデザインが決まった。

「すみませ~ん。デザインを決めました!このデザインを入れたいんですけど」

と女の子に伝えた。

女の子は「え!最初からこんなに大きいのを彫るんですか?大丈夫ですか?

で、場所はどこに彫るんですか?」

と今度は女の子の方が質問攻めにしてきた。

「はい、このドクロから炎が出てるやつを
左腕から肩にかけて彫りたいんです」

と、言ってしまってから、僕の心の中では

“本当にこんな大きいなの入れても平気なのか?

いや、自分を変える為には大きい方がいいんだ”と正直ずっと悩み続けていた。

「分りました。このままでは使えないので改めてデザインを起こして
それを確認してもらってから
彫るような流れになりますけどそれでもいいですか?」と確認された。

僕は勿論「はい」と答えた。

その後は、受付カードに名前等を書いて一番大事なメールアドレスも記入し

内金を支払って全ての準備が整った。

よし、これで後は彫るだけだと僕はそう思い帰ろうとした時に

女の子が「当日担当させて頂きます、Akiです」

と言って名刺をくれた。

さっきの子は受付でも、取次でもなく、本物の彫師の人で

しかも僕を担当してくれる人だったんだ。

だから一から親身なってTATTOOのデザインなど

相談に乗ってくれてたんだ。

その子が担当してくれる事に安心した僕は今までの緊張が一気に解けた。

この日から僕の中で”女の子”から”Akiさん”に彼女の呼び名が変化した。
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