イケメン伯爵の契約結婚事情

ディルクとトマスから剣を奪い、二刀流の状態で、フリードに切り付けてくる。


「往生際の悪い!」

「お前などに何がわかる。お前にやられるくらいなら俺は……」


キィンという金属音が響き、片方の剣を受け止めたものの、もう片方の剣がふたりを狙う。フリードがエミーリアをかばうように身を低くしたと同時、アルベルトが足元から崩れた。


「くっ、このっ」


アルベルトの足に食らいつくようにしてバランスを崩させたのはトマスだ。


「お逃げください。エミーリア様」


フリードはアルベルトの首筋に剣先を当てた。


「……逃げろ、カテリーナ」


形勢不利を察したアルベルトは、カテリーナを振り仰ぐ。
しかし彼女は、乱れた髪をそのままに、短剣を足元に落とすとゆっくりと家の中に入っていく。


「叔母上?」


フリードの問いかけには返事がなく、しばらくするとエグモントとの諍いの声が聞こえてくる。
同時に焦げ臭い香りが、辺りに漂い始めた。


「カテリーナのやつ、何を」

「火だわ。火事よ。大変」


エミーリアは窓から出る煙を見つけ、指さした。


「消さなきゃ」


そして、フリードの腕から逃れ、屋敷へと駆け出す。


「エミーリア、待てっ」


フリードが追いかけ、満身創痍のディルクも体をふらつかせながら後を追った。
アルベルトを押さえつけているトマスだけはその場に残ったが、アルベルトも逃れようと執拗に足を動かす。


「どけ。カテリーナを止めなければ」

「今フリード様たちが向かいました。あなたを逃がすわけにはいきません」

「カテリーナを止められるのは私だけだ。離せ!」


頭を肘で殴られ、力が緩んだすきにアルベルトがトマスの腕を抜け出す。


「っ、待てっ」


慌ててトマスも後を追ったが、すでに屋敷内からは火の手が上がっていた。


「エミーリア様っ」


袖を破り口元を抑えて、トマスは屋敷の中へと入った。


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