イケメン伯爵の契約結婚事情
10.あなたと新たな契約を

 屋敷内は油のにおいが充満していた。
エミーリアは一瞬立ち止まったが、物音が聞こえる奥のほうへと向かう。


「おやめください、カテリーナ様」


エグモントの声だ。声のほうに向かう途中、廊下や壁に油のしみた跡が見つかる。
屋敷の奥のほうから響くのは、ガチャン、と何かが割れるような音だ
見ると、カテリーナが壁に向かってランプを投げつけている。


「終わりよ。エグモントもどこへでも行きなさい。すべて燃やすの。……ゴホッ、ゴホッ」


煙幕がふたりを包む。火が広がるよりも先に煙でやられてしまいそうだ。
カテリーナは苦しそうに呼吸しながらも、あたりかまわずものを投げつけるのをやめない。


「カテリーナ様っ、やめてください。逃げないと……焼けっごほっ」


エミーリアは大声で叫んだが、煙がすごく息が続かない。
せき込み、涙目になったエミーリアを見つめ、カテリーナが髪を振り乱し、異常に感じるほど目が輝かせて笑った。


「あら、まだいたの? 馬鹿ね、一緒に焼かれる気? さっさと行きなさいよ。私はここで死ぬ。生き残っても、一人になるんだもの。あの花を奪われたら、あの人は私のもとから去っていく」


エミーリアにはその言葉の意味は分からなかった。いつの間にか追いついてきたフリードがエミーリアの肩を抱き、痛ましそうな顔で叔母を見つめる。


「叔母上。そんなに叔父上のことを……」


エミーリアにはフリードの手の怪我のほうが気になった。血は止まったようだが、中指が絶え間なく痙攣している。早く医者に見せないと大変なことになるのではないか。
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