イケメン伯爵の契約結婚事情


「……だって、多少羽目を外しても怒らないって言ったわ」

「それは屋敷の外でって言ったろ?」

「そうだったかしら」


つん、とおでこをつつかれ、エミーリアは痛みの残るそこを抑えながら軽くよろめいた。


「お転婆め」


その声も指の合間から見える顔も、優しかったからだろうか。
同じ言葉を言われているのに、父や母に責め立てられるのときと、全然違う気持ちになる。


「いいだろう。君の部屋で食べよう。ディルク、俺の食事も寝室へ」

「かしこまりました」

「じゃあ待ってるわ」


身をひるがえそうとしたとき、左手首を掴まれた。フリードの眼差しは柔らかいのに、射抜かれた気分でエミーリアは動きを止める。


「なに?」

「一緒に行く。大体、護衛もつけずにうろちょろするなと言っていたはずだ。しかもそんな恰好で。俺も着替えるから少し待っていろ」

「わ、分かったわ」


フリードの着替えを見ないようにそっぽを向いて待ちながら、夜着姿の自分を鏡で見つめる。
今まで気にしたこともなかったのに、今はすごく恥ずかしいような気がして、落ち着かない。

その恥じらいが自分を以前よりずっと娘らしく見せていることに、エミーリアは気づいてはいなかった。



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