もう一度君に会えたなら
 だが、彼のわたしを庇ってくれた言葉にも、胸の痛みを感じた。
 お父さんが仕事を辞めたのなら、お母さんが働いているのだろうか。
 どちらにせよ、十分な稼ぎがあるなら、生活費のためにアルバイトをしたりはしないだろう。

 わたしは自分の浅はかな発言を恥じた。
 だが、わたしは引っ掛かりも覚えた。彼が大学入試を控えていると思ったのは高校三年という学年だけではない。
 彼の制服についた校章も一因となっていた。

「和泉高校に通われているんですか?」
「そうだけど」

 この辺りではトップの名門といってもおかしくない県立高校だ。わたしの通っている高校よりも若干レベルが高いとされている。そんな高校に通って大学に進学しないのは、彼が高校に入って著しく成績を落としたのだろうか。

「要は大学ってお金がかかるだろう。だからだよ。国立に通ってバイトしながらって手もあるけど、金銭的に難しいと思うんだよな。ってか、初対面の人に語る話じゃないか」

 彼は苦笑いを浮かべて頭をかいた。
 彼は学校に通い、早く終わる日はこうしてバイトに勤しんでいるのだろうか。
 それも自分の生活費を稼ぐために。

 家に帰って好きなことをして、ごはんはお母さんや瑤子さんが作ってくれる生活をしているわたしには到底想像できないことだった。


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