もう一度君に会えたなら
 翌朝、わたしは四時過ぎに目を覚ました。そして、用意しておいたワンピースに袖を通した。
 そのままバッグを手に部屋を出ると、足音を忍ばせ階段を下りる。
 そして、そのまま玄関に直行して、あらかじめ出しておいた黒のパンプスを履いた。

 家を出ると、鍵を閉めた。
 そこで胸をなでおろした。
 物音も聞こえないし、両親が起きた気配もなかった。

 両親も瑤子さんも眠っているだろう。一応ごめんなさいと警察には知らせないでほしいと記した置手紙は残してきた。それがどこまで効果があるかは分からないし、あっさり帰ってくるかもしれない。ただもう後戻りはできなかった。

 一礼をして、家を出ようとしたとき、家の庭から人影が現れた。
 瑤子さんはわたしと目が合うと、会釈をした。

「やっぱり行かれるんですね」
「どうして」

 彼女には何も言っていない。わたしが川本さんと付き合っていることさえも。なのに、なぜ気付かれたのだろう。

「分かりますよ。ずっと幼いころから唯香様を見てきたのですから。昨日、何か覚悟を決めた目をされていました」

 わたしはそっと唇を噛んだ。
 幼いときから一緒にいてくれた彼女を見くびっていたのかもしれない。

「両親には」
「分かっています。言いません。ただ一つだけお願いがあります」

 わたしは彼女の言葉に息をのんだ。

「わたしに目的地まで送らせていただけませんか?」
「そんなことをしたらあなたも共犯になってしまうわ」
「大丈夫です。それより唯香様をこんな時間に一人で歩かせるほうが問題ですから」

 そう言われるとダメだとは言えず、わたしは彼女の言葉に甘えることにした。
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