もう一度君に会えたなら
「駅まで送ってほしいの。そこから新幹線に乗って鎌倉に行こうと思う」
「鎌倉?」

 瑤子さんは目を見張る。当然だ。何のゆかりもない場所に行こうとしているのだから。
 彼女は天を仰いだ。その眼がわずかに潤んでいる気がした。

「一人ではありませんよね」
「川本さんという人と一緒なの。わたしの恋人で、ずっと、ずっと好きだった人」
「唯香様の……」

 彼女はあごに手を当て、何かを深く考えているようだった。

「もう一つだけお願いをさせてください」
「内容次第かな」
「その男性に会わせていただけませんか?」

 わたしは彼女の提案に驚いていた。だが、同時に納得していた。わたしの親代わりだからこそ、その相手の姿を確認したいと思ったのだろう。
 
「分かった」

 彼女はわたしを陥れたりはしないという気がした。そのため、わたしはその提案を受け入れることにしたのだ。

 わたしは川本さんに連絡をした。彼も今から家を出るようだ。
 わたしは家で働いている女性に車で送ってもらえるようになったと彼に告げた。
 彼は驚いたようだが、嫌がることはなかった。わたしの家から少し言った場所にある、大通りで待ち合わせをすることになった。

 瑤子さんは車庫に止めていた彼女の車のエンジンをかけると、わたしを乗せてくれた。
 そして、車を走らせた。
 暗い夜道がライトに照らし出された。

「ありがとう。でも、よかったの?」
「いいんですよ。唯香様なりに考えた結果なのでしょう。後悔しないようになさってください。わたしは唯香様の味方です。ずっと前から」

 彼女はわたしの親代わりだった。だから、その言葉も納得できる。
 だが、何だろう。ずっと前にもこういうことがあった気がする。

 車は待ち合わせをしていた大通りで止まった。川本さんが歩道に立っていた。

 わたしは一度車から降りると、川本さんを呼んだ。

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