もう一度君に会えたなら
 彼は頭を下げると、後部座席に乗り込んだ。
 川本さんを見て、瑤子さんは目を細めた。

「やはりあなたが唯香様の恋人なんですね」
「川本さんのことを知っているの? お母さんから聞いたの?」
「一度だけ二人で一緒にいたのをお見かけしたことがあります。お似合いだと思いました」

 そう言われ、わたしと川本さんは目を見合わせた。
 そして、どちらかともなく目を逸らしてしまった。
 そんなわたしたちを見て、瑤子さんはほほえましそうに笑っていた。


 駅の前で車を止めてもらった。始発に乗るのか、ぽつぽつと人の姿があった。
 川本さんはお礼を言うと、先に車を降りた。
 わたしも瑤子さんを見た。

「ありがとう」
「いいえ。こちらこそ、会わせてくださってありがとうございました。素敵な方ですね。唯香様によくお似合いです」

 彼女はわたしの頭をそっと撫でた。
 さっきと同じ、何かが脳裏を過ぎった。何でこんなに懐かしいのだろう。
 川本さんに会ったときほどではないが、何かを感じていた。
 昔の記憶だろうか。

「いってらっしゃい。川本さんが待っていますよ」

 彼女に言われ、わたしは車を降りた。
 彼女はわたしと川本さんに頭を下げると、そのまま車を走らせた。
 遠ざかっていく車から、わたしは目が離せないでいた。

 その何かが頭の片隅に引っ掛かっていたのだ。

 わたしの脳裏に過ったのは、いつも過去のわたしの傍にいて、遊び相手になってくれた女性のことだ。
 瑤子さんが彼女だったのだろうか。
 それを確かめるすべはないけれど……。

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