もう一度君に会えたなら
 彼女はわたしの命が尽きるまでずっとそばにいてくれた。ある意味、大姫の人生を一番近くで見届けた女性だったのだろう。

 わたしの前に手が差し出される。
 差し出したのは川本さんだ。

「行こうか」

 わたしは頷いた。

 瑤子さんに新幹線の停車駅まで送ってもらったことで、わたしたちは早い時間の新幹線に乗ることができた。
 がらがらだと思っていた車内には人の姿がちらほらとあった。

 席に座ると、ほっと天を仰いだ。
 隣に座った川本さんを見ると、川本さんは難しい顔をして、携帯をじっと見ていた。

「どうかしたの?」
「なんでもないよ。到着するまでゆっくりしよう」

 わたしは彼の言葉に頷いていた。



 わたしたちはそれから電車を乗り継ぐと、鎌倉駅で下車をした。

 駅を出ると、深呼吸をした。過去の記憶を思い出したときのように、もっと深い感慨を受けるかと思っていたが、意外と普通だった。それはあまりに昔の面影を残していなかったからだろうか。

 傾いた太陽がわたしたちをゆっくりと照らし出しかけていた。
 かなり早い時間に家を出たのにも関わらず、もう夜の気配が見え隠れしていた。
 日帰りも考えていたが、どうやらそれは無理そうだ。
 宿もまだとっていないはずだ。まずは宿を取ったほうがいいんだろうか。

 川本さんは手にしていた携帯をポケットの中にいれた。
 彼は車内でも何度も携帯の確認をしていた。お父さんから何かしらの連絡があったのだろうか。
 一方のわたしの携帯の電源は切ったままだ。
 今頃、お父さんやお母さんからの電話やメールが多量に届いている気がしたが、今はそんなことを気にしたくなかった。

「いまからどうしようか。日帰りは無理だよね」
「さすがに厳しそうだね。まず最初に行きたい場所があるんだ。まずはそこに行こう」

 わたしは頷いた。そして、歩き出した川本さんの後を追うことにした。




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