もう一度君に会えたなら
「後悔したくないと思ったんだ」
「学費の問題だってあるし、きっと大変だと思う」

 彼はわたしの言葉に目を細めた。

「楽か大変かと言われれば大変だと思う。バイトはもちろんするけど、それだけで足りるわけがない。だから、お金も借りたりしないといけないだろうし。保証人の問題もあるけど、やるだけやってみるよ。きっとそうしないと後悔すると思った。十年後、二十年後に、やっぱりそうしておけばよかったと後悔したくなかったんだ。ただ、きっと今までのように君に会えなくなるし、君をどこかに連れて行ったりもできないと思う。それでも構わない?」

「そんなの当たり前だよ」

 彼は自分の夢をつかむために頑張ろうと決めたのだ。それを応援するのが一番に決まっている。
 会えないという決意は悲しいが、彼の目は未来を見ているのだろう。
 今のわたしにできるのは、彼を応援することだけだ。

 わたしも両親を説得しないといけない。彼の未来にできるだけ寄り添うためにも。
 わたしが決意を固めたとき、彼は続きの言葉を綴った。

「君には話をしておいたほうがいいと思うんだ。沙希のお父さんにも太田さんの娘さんならと許可はもらったから」
「沙希さんのお父さんのこと?」

 川本さんは頷いた。

「沙希のお父さんが会社でトラブルを起こしたとは聞いたんだよね」

 わたしは頷いた。彼女から話をしたと聞いたのだろう。

「あいつは本当のことを知らないんだ。だから、ごまかそうとしたわけじゃないのは分かってほしい。沙希のお父さんは会社の金を横領しようとしたんだ。理由は沙希の母親の治療費とそのために作った借金の返済のため。それに気付いた俺の父はもみ消そうとした。だが、それを君のお父さんともう一人別の人が気付いてしまったんだ」

 わたしは驚きのあまり川本さんを見た。
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