もう一度君に会えたなら
「状況的に場を収めることが出来なくて、当然会社は解雇して、告訴しようとしていた。会社の金を横領したんだから、当然なんだよ。そのとき、沙希のお父さん側に立って、話し合いに立ち会ってくれたのが、君のお母さんのいる弁護士事務所だったんだ。君のお父さんが頼んでくれたらしい。そのあと、沙希の家が抱えている債務整理も手伝ってくれた。君のお母さんがいなかったら、沙希は今みたいに普通に生きられなかったと思う。俺はそれから弁護士になりたいと思ったんだ」

 わたしは初めて聞く理由にただ、驚きを隠せないでいた。

 まさか川本さんの夢にわたしの母親が関わっているなど考えもしなかったのだ。

「だから、君のお母さんから別れなさいと言われたとき、受け入れようと思った。沙希の恩人だったから」

 今まで腑に落ちなかったことが解決した。

「でも、君のお母さんはこうも言ったんだ。そうしてほしいけど、君も俺も納得しないかもしれない。隠れて付き合い続けようとするかもしれない。特に君がね。君のお母さんはそう言って、俺に条件を課した。それが俺が生きたいと思う人生を生きること。弁護士になりたいなら、自力でなりなさい、と。

親が子供が真剣に学びたいと思うときには、お金を出してくれるのは当たり前だと思っているけれど、そんな環境に俺がいないのは変えられない。だから、その道を自分で切り開きなさい、と。大変なのはわかっているし、挫折するかもしれない。でも、そんなことさえできないなら、弁護士としてやっていけるわけがないし、万一君と結婚したときに自分の父親から君を守れるとは思えない。そんな相手に君を任せられないと言われた。その覚悟を見せてほしい、と」

「守るって」
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