もう一度君に会えたなら
「君に何かあった時、俺が逃げ出せずに君を支えられるかどうかだと思う。俺のお父さんは君の家族を嫌っているから、君を傷つけようとするかもしれないというのもあったんだと思う。その覚悟を見せてくれたら、付き合いを許してあげてもいい。君のお父さんが反対したら、自分が説得するから、と。そのことで、迷っていたんだ。期限は今月中だとね。だから、夏休みに入ったら、自分の気持ちを見つめなおすためにここに来ようと思っていた」

 彼はそっと唇を噛んだ。

「昨日、君に会って、君も過去のことを思い出していることを知って、少しだけ気持ちが前向きになったよ。先のことを考えると暗い気持ちにはなるけど、頑張ってみようと決めた」

 その彼の瞳は今まで見たどんな姿よりも強く、輝いて見えた。
 彼は自分で道を切り開いていこうと決めたのだろう。
 それを応援しないわけがなかった。

「頑張ってね。応援するから」
「ありがとう」

 彼は自分のために、そしてお母さんとの約束を果たすために重い決断を下した。
 わたしには何があるだろう。彼に寄り添えればそれで満足なのだろうか。
 わたしは彼に相応しい人間になれるのだろうか。

 大姫として生きたときは、ただ彼と一緒にいるだけで満足だと思っていた。
 でも、あのときとは違う。昔とは違う時代を生きている。わたしも彼も学校を卒業して、自分で生きていかなければならない。

 わたしはこれから先、自分の人生をどうしたいのだろう。

「あと、君のお母さんもこっちに来ているよ」

 わたしは驚き、川本さんを見た。


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