もう一度君に会えたなら
 きっと川本さんのお父さんとかぶってしまうからだろう。
 そうだけど、何か先手を打たれた気分だ。

「あなたも名前で呼べばいいじゃない」

 お母さんはくすりと笑う。

「あなたのそんな顔を見る機会があるとは思わなかった。瑤子さんの言った通りね」
「瑤子さんが何か言っていたの?」

「本当は義純君との付き合いを頑なに反対しようと思ったのよ。でも、瑤子さんに説得されたの。彼以上にあなたを満たしてくれる人はどこにもいない、と。ずっとあなたの面倒を見てくれた彼女がそうはっきり言うから、信じてみようと思ったの」

 わたしはその言葉を聞き、目頭が熱くなった。
 瑤子さんは瑤子さんなりにわたしの力になってくれていたのだろう。そんなこと微塵も感じさせなかった。
 お母さんはわたしの頭をぽんと撫でた。

「じゃ、行くわよ」

 わたしは涙を拭った。
 お母さんと一緒に部屋を出て、隣の部屋の川本さんの部屋に行く。
 川本さんはすぐに部屋を出てきた。
 お母さんがごはんに誘う間、わたしは川本さんから目を話せなかった。

 どう呼べばいいのだろう。

 話を終えた川本さんがわたしを見た。

「何かあった?」

 理由を知っているお母さんはくすりと笑う。

「絶対に言わないで」
「言わないわよ。先にレストランに行っているから」

 お母さんはそういうと、一足先にエスカレーターのほうに歩いて行った。
 そんなやり取りを川本さんは不思議そうに見ていた。

「そろそろ行こうか」

 立ちすくんでいるわたしを川本さんが促した。

「あのね、川本、うんん。義純さんだと何か変な感じ」

 わたしは彼の名前を頭の中で繰り返した。
 きっとしっくりくるのはこれだ。

「義純様」

 川本さんの顔があっという間に真っ赤になった。
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