もう一度君に会えたなら
 やってしまったかもしれない。言わなきゃよかった。
 そう後悔したとき、川本さんが頭をかいた。

「さすがに様はどうかと。今はそんな時代じゃないし」

 彼が反応したのはそっちだったのだろうか。

「じゃあ、義純さん」
「様以外なら、好きなように呼んでくれていいよ。唯香」

 義純さんはわたしの頭をぽんと叩いた。
 初めて名前で呼んでくれた。
 わたしは自分の顔がにやけているのがばれないように、口元を両手で隠した。

「行こうか。義純さん」

 わたしは彼に手を差し出した。彼はその手をつかんでくれた。


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