もう一度君に会えたなら
 わたしの肩が不意に叩かれた。振り返ると一人の少女が立っていた。彼女は釣り目をぎらりとさせ、わたしを睨んだ。

 郷愁のようなものに浸っていた心が一瞬のうちに引き、我に返った。

「もう、唯香って歩くのが早いんだから」
「ごめん。ごめん。ついさ」

 わたしはロングヘアの髪をかきあげると、苦笑いを浮かべた。
 ことの流れは至って単純。
 目の前のクラスメイト田村榮子が忘れ物をして学校に取りに帰ったのだ。
 彼女は追いつくから先に帰っていいといい、わたしはその言葉に甘えることにしたのだ。

 その帰り道、公園で咲き誇る桜の花を見つけ今に至る。

「ま、唯香はマイペースだもんね。長い付き合いだもん。だから、こうして急いで追いかけてきたわけだけど」

 彼女は自分のお腹に手を当て、大げさに肩をすくめた。

「お腹すいちゃった。何か食べて帰らない?」
「そうだね。まだ夕食まで時間があるし」

 わたしがよさそうな店を探そうとしたとき、今までとは違う風の流れが起こった。目の前にある公園の桜の花が大きく震えた。先ほど見たのと同じ花にも関わらず。

 なぜわたしはこんなに桜の花に惹かれるのだろう。
 
 桜の花びらがわたしの目の前にやってきて、思わず手を差し出した。そこに桜の花が舞い降りた。

「桜の花?」

 友人の問いかけに答えようとしたとき、わたしの傍を誰かが通り過ぎようとした。わたしは反射的に顔を上げた。その人の顔を見た途端、胸の奥が震えるのが分かった。わたしより頭二つ分ほど高い男性で、綺麗な人だと思う。だが、それ以上に「何か」を感じた。心の中に広がる、懐かしいような、苦しいような、言葉で言い表せないような気持ち。
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