もう一度君に会えたなら
 わたしは深呼吸をすると、台所で食器を洗うお母さんに声をかけた。
 お母さんは振り返ると、目を細めた。

「どうかした?」
「あのね、わたし、アルバイトがしたいの」
「アルバイト? 何かほしいものでもあるの? 言ってくれれば買ってあげるわよ」

 榮子に相談し、わたしが彼の連絡先を聞いたことに驚かれたが、それなら同じ場所でアルバイトをしたらどうかと提案してきたのだ。両親がいいというか分からないと言ったが、言ってみるだけならと言われ、勇気を出して伝えてみたのだ。

 だが、わたしの両親らしい返答に、わたしは苦笑いを浮かべた。
 わたしの両親はわたしがほしいといえば、大抵のものは買ってくれた。洋服も、パソコンも携帯も。

 お金目的だといえば、間違いなくそう返されるだろうとは分かりきっていた。
 そんなわたしに榮子はこういえばいいと提案してきたのだ。

「そうじゃないの。ほら、社会勉強をしたいし」
「だったら、今度わたしの事務所にでも来てみる? 上田さんもあなたに会いたがっていたわ。明後日、篠田さんに昼食に誘われているのだけれど、あなたも来る? だったら時間を少し遅らせてもらうわ」
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