もう一度君に会えたなら
 榮子はわたしとお母さんとのやり取りを聞きながら、苦笑いを浮かべた。

「さすが唯香の家は違うね。小手先では通用しないか。好きな人がいるからバイトしたいのと言ってみるのは?」
「片思いなのにそんなこと言えないよ。それに恋愛している場合じゃないと言われちゃいそうだもの」

 わたしは肩をすくめた。

「もうメールを送ろう。そもそも連絡先を聞いた時点で、唯香の気持ちは相手にばれているようなものだもの」

 榮子の提案にわたしは首を横に振った。

「気持ちって、別に好きってわけじゃ」
「そもそも通りすがりの人にそこまで会いたいとは思わないよ。また、会って話がしたいんでしょう」

「そうだけど、断られたら、もうどうしたらいいかわからない」
「でも、バイト先にも行かないと約束してしまったのは痛いよね。学校で待ち伏せなんてできないでしょう?」

 わたしは首を縦に振る。そんな相手に迷惑がかかりそうなことなどできるわけがない。

「だったら誘うしかないよ。そんなことしている間に、向こうに彼女ができるかもしれないじゃない。好きな子だっているのかもしれない」

 わたしは唇を噛んだ。
 わたしは彼のことを何も知らない。名前と高校だけ。そもそも今彼女がいるかだって知らないのだ。

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