もう一度君に会えたなら
 わたしは夢が原因だ。彼にもきっと何かがあったのだろう。その理由が気にならないといえば嘘になる。それでも、今、こうして同じ時間を共有できただけも幸せだった。

「これからバイトがあるから帰らないといけないんだ。君はどうする?」
「わたしも帰ります」

 わたしたちはそれから電車に乗り、近くの駅に戻った。その間、ほんの少しだけ話をした。お互いの学校についての話だ。こんなことがあったという他愛ない、きっと友達としたなら、すぐあとには忘れてしまうだろう。だが、きっとわたしは何年後もその会話を覚えているだろうという気がした。

 駅を出ると、彼のバイト先の近くで別れることになった。

「今日は一緒に帰ってくださってありがとうございました」
「いや、俺こそ、悪かった。君に会いたくないと思ったわけじゃないんだ。誤解されたままじゃなくてよかったよ」

 彼はそうさらりと言った。だが、わたしはその言葉に思わず反応してしまっていた。

 じゃあ、と去っていこうとする彼を呼び止めた。
 もう一度、勇気を出してみようと思ったのだ。

「いつでもいいので、ほんの少しだけでもいいから、また会いたいです」

 彼の顔がわずかに赤くなるのが分かった。

「分かった」

< 35 / 177 >

この作品をシェア

pagetop