恋歌い
4
ー私、あなたのこと好きになっちゃった。

基紀は、奏の続きの言葉を聞いた。

「ひとめぼれ。だから、あなたのために、皆のために歌ってあげる」

当時の基紀は、ひとめぼれだという言葉には深く注意を払わなかった。

皆のために歌ってあげる、という


その声が、

その歌が欲しかったから。



正式に事務所と契約して、シンガーとしての活動が始まってから改めて聴いたところによると、片思いしていた先輩に彼女ができたところだということで、
「ちょうどよかったんだ」と言われた。


彼女は「恋」をしないと歌えない。歌わないのだ。
叶わない恋ではない。現実(リアル)の相手が必要だった。


基紀に恋をするからこそ、基紀のための万人への歌い手だったのだ。



その基紀は、今月末に結婚する。

つまり、



彼女の「歌」は、終わりを迎える。







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