奏 〜Fantasia for piano〜

「香月くん、花火大会に来なかったね」

「約束破るのはよくないよ」

「うちら、ずっと待ってたのに」


え、女子と花火大会の約束してたの?

驚いて目の前の四人を見ていると、奏は面倒くさそうな顔をして、謝罪ではなく言い返していた。


「俺、行けたら行くって言ったはずだよ。
用事ができたから行けなかった」

「だったらメールくらいしてよ。連絡先書いて渡したでしょ?」

「その紙なくした。それより、頼むから家まで来ないでくれるかな」


家に押しかけられて、花火大会に誘われたということなのか。

行かないと言えば粘られると思い、奏は『行けたら行く』と返事をしたのだろう。


連絡先……そういえば、私も交換していない。

教えてほしいと頼めば、私には教えてくれるだろうか?

うーん……ちょっと自信がない。


謝らず不機嫌さを顔に出す奏に、女子達は面白くない顔をする。

やがて諦めたのか「もういい」とひとりが言って、背を向けた。

後のふたりも「期待外れ」「ムカつく」と言い捨てて去っていき、奏の隣の席の男子が「お前って、なんか大変だな」と同情を寄せていた。


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