奏 〜Fantasia for piano〜

なにを言っているんだろう。

髪が伸びたことで惚れることができるのなら、野球部以外のほぼ全ての男子生徒にときめかなくてはならないじゃない。

「ううん、惚れてない」とハッキリ否定したら、宏哉のテンションが目に見えて下がった。


そこに今登校してきたばかりの梨奈が、苦笑いしながら合流する。


「二学期早々、宏哉が可哀想な展開になってるね。綾、せめて似合うって言ってあげなよ」


梨奈は時々、もう少し宏哉に優しくしてあげなと注意をくれる。

でも私としては、そんなにキツイ対応をしているつもりはないし、今の会話の温度でちょうどいいと思っている。

変に優しくして期待を持たせる方が可哀想だと思うけど、違うのかな……。


落ち込んだ宏哉は男子の友達の方へと離れて行き、梨奈は少し話してから、自分の席へと移動した。


ホームルーム開始五分前になり、予鈴と同時に奏が教室に入ってきた。

私の前の席までくると、目も合わないうちに奏が女子三人に囲まれた。

なぜか女子達は怒ったような顔をして、口々に文句を言う。


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