奏 〜Fantasia for piano〜
第四楽章、扉から出る勇気
◇◇◇
お月見も終わった十月中旬、奏の彼女になって半月が経つ。
お昼休みの教室で、梨奈といつものようにお弁当を広げていた。
奏は相変わらず、体育準備室でひとり、お昼を食べていることだろう。
一見、ひと月前となにも変わらないようだが、違う点もちゃんとある。
アコールのマスターに、『俺達、付き合うことになりました』と奏が報告し、マスターと常連客のおじさん達に祝福された。
それまではマスターに『お嬢さん』と呼ばれていたけど、今は『綾ちゃん』と親しげに呼んでくれて嬉しく思う。
それから、やっと奏と連絡先を交換できた。
電話もメールも、素っ気ないやり取りですぐに終わりにさせられても、以前に比べたら格段の進歩だと思っている。
宏哉は後夜祭の宣言通り、もう私を追ってこない。
昼休みの今も、パンを食べながら英単語を記憶中。
目の下にクマまで作って、睡眠時間を削って頑張っているのかな……体を壊さないといいけど。
チラリと宏哉を見て心配してから、食べ終えたお弁当の蓋を閉めた。
目の前の梨奈は「あ、先輩からだ!」と、嬉しそうにLINEメールに夢中。