奏 〜Fantasia for piano〜

嬉しい告白をもらった直後に、少しだけ体を離されて唇が重なった。

奏とのキスは、これが三度目。

心の準備が整わないうちのキスに、目を閉じるタイミングを失ってしまうのは、前の二回と同じ状況。

でも今回のキスは、心が通じ合っているから、全然違う気がして……。


小鳥がさえずる森の中、柔らかな木漏れ日が私達を包んでいる。

やっと想いが重なって、喜びの中で甘いキスに酔いしれていたら、チッチッと耳元に鳴る小さな音に気づいた。

それは奏の腕時計の秒針の音。

奏と一緒にいられるのは、後何日あるのか……。


時計の針は動き続ける。別れに向かって。

別れの日は奏の夢への再出発の日で、祝福してあげたいと心から思う。

でも、できるなら、それまではゆっくりと時を刻んでほしいと時計に願う。

もう少しだけ、この幸せに浸っていたいから……。




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