奏 〜Fantasia for piano〜
第五楽章、卒業。未来を信じて
◇◇◇
ストーブが赤々と燃えるリビングで、私はトーストとカップスープで簡単な朝食を取っている。
食べ終えて食器を流し台に片付けたところで、お母さんが起きてきた。
「綾、今朝は随分と早起きだね」
「おはよう。今日は早めに学校に行きたいんだ」
三月一日、今日は卒業式。
昨日のテレビのニュースでは『春風の吹く中で、明日卒業式を迎える学校がーー』と言っていたけど、ここは北国。
気温は二、三度までしか上がらないし、毎日のように雪が降っている。
「卒業式は十時からだよね?
お母さんは、後からゆっくり行くね」
「うん。帰りも別でお願い。
梨奈とお昼ご飯を食べに行く約束してるんだ。その後は夕方からクラス全員でお別れ会」
お母さんと話してから、自分の部屋に戻り、パジャマを脱いで制服に着替えをする。
白いブラウスに、チェック柄のスカートとリボン、紺色のジャケット。
三年間お世話になったこの制服も、今日が着納めになるかと思うと、ひとつひとつの動作に時間をかけたくなってしまう。
でも急がなくちゃ。
奏も早めのバスに乗ると言っていた。
今日が最後だから、少しでも長く一緒にいたいし、話さなければならないこともある……。