奏 〜Fantasia for piano〜
コンビニで夕食を買うつもりだったのに、素通りして国道に入り、北東へ車を走らせていた。
行ったっておばあちゃんの家はもうないし、奏に会えるわけでもないのに、なぜ私は片道二時間もかかる田舎町に向かっているのか、自分でも分からない。
それでも田舎に向かう。
五歳の夏を追いかけるように。
外灯がポツンポツンと広い間隔にしかない田舎道は、車のヘッドライトだけが頼りだ。
暗すぎて、運転に疲れが見えてくる。
うっかり曲がるべき道を見過ごして遠回りをし、二時間半もかかってやっとおばあちゃんの家があった場所にたどり着いた。
取り壊されたのは、何年前のことだったろうか……。
古い家で辺鄙な場所なこともあり、売りに出しても買い手がつかず、今は更地にしてある。
ただ夏草が生い茂るだけの場所には感慨が湧かず、車の中で溜息をついた。
分かっていたけど、本当になにもない。
私、ここになにしに来たんだろう……。